JOJO | ナノ


▼ 盲目と公園

俺はひとり公園で女を待っていた。正式に付き合ってるわけでもないただの遊びだが、まぁないよりはマシって感じだな。
まばらに人が行きかう公園の片隅にひとつのベンチを発見した。すでに一人誰かが座っているようだったがそこまで狭いベンチでもないし、そこに座って適当に時間を待とうと歩を進める。
遠くじゃわかりづらかったが座っていたのは目を疑いたくなるような美人で、ピタリと閉じられた瞼のせいでその瞳の色が分からないのが残念なくらいだ。
俺は迷わずに声をかけた。

「Ciao,シニョリーナ、こんなところで昼寝か?隣、いいか?」
「Ciao,隣はいいが生憎と僕はそこまで可愛らしくなれないし昼寝もしてないぞ」

瞼を閉じたままの美人はなんてことないって感じでこちらに顔を向けて言葉を発した。確かにその声は少しだけ高い青年っぽい声だった。

「オイオイマジかよ、アンタ男なのか?!」
「逆に女に見えるのか?」
「ああ、女を見る目には自信あったんだがなぁ」
「僕は僕で女に間違われて悲しいけどね」

困ったように眉を寄せて笑う青年はやっぱり見れば見る程美しくて、不思議と席を立とうとは思えなかった。このままこの男と話をしてみたい。そう思った時にはもう次の言葉が口から出ていた。

「しょうがねぇなぁ、まぁこれも何かの縁ってやつだろ?仲良くしようぜ」
「ふむ、まぁ確かにこれはこれで奇妙な縁だな。名前だ」

名前と名乗った青年は桜色の唇を微笑みに曲げて手を差し出してくる。陽に当たったその顔はやっぱり女性的で、俺は未だ完全に納得はしていないがそのまま名前の手を取った。

「ホルマジオだ、よろしくな」

話してみれば名前という青年は面白い奴で、目が見えないのにピアニストをやってるっていうから驚きだ。しかもそこそこ有名な会場で演奏なんかしてるらしいから結構な有名人じゃねえか、と心の中で驚いた。

「ていうかお前こんなところで何してんだ?」
「連れを待ってる。連れが急に遠出したいって言い始めたから家まで足を取りに行かせてるんだ」
「随分突拍子のねぇ奴なんだな、家は近いのか?」
「まぁそこそこかな」
「じゃあ連れが来るまで話してるか」
「うん」

風になびく名前の少し長めの髪はやっぱり女性的な艶やかさがあって、これは間違えても恥ではないと確信する。

「それにしても見た目で女性に間違われるのは困るな」
「いいじゃねぇか、俺なんかこんな見た目だから初対面から物騒だなんだよく言われるぜ」
「こんな見た目ってどんな見た目だ?」

小首を傾げる名前の言葉にギクりとする。話していて全く違和感がなかったために彼が盲目であることをすっかり忘れていた。

「悪い、見えないんだったな」
「いいんだ。そんなことよりホルマジオはどんな見た目なんだ?」

俺が自分の見た目をなんて言おうか言い淀んでいると背後から聞き慣れた声が投げられた。

「…オレンジ色の髪を坊主にして変な剃り込みを二本入れてるチンピラみたいな老け顔だぜ」
「あ、メローネ」

俺が言うより早く名前が背後にいる奴の名前を呟くようにその口から発した。その表情はどこか嬉しそうで、俺はなぜかそれが気にくわなかった。

「名前、なんでコイツと話してんだ?まさか知り合いだったのか?」
「今さっき知り合ったんだよ、ねぇ」

名前が目を閉じたままこちらに向き直って同意を求めてくる。

「ああ、俺が名前を女と間違えて話しかけたんだよ」
「ハァ?お前の目は飾りかなんかか?」
「オイオイひでえなあ」
「メローネ、なんでそういう事言うんだよ」

口をとがらせてメローネを咎める名前は怒った風なのにどこか可愛らしくて俺は小さく笑いを漏らした。

「とにかく、名前は俺が連れてくからな!」
「おーおー好きにしな、またな名前」
「うん、またねホルマジオ」
「またなんかないぞ!」

舌をべっと出して言うメローネは珍しく気を立たせて荒々しく去っていた。普段面倒くさそうにチームメンバーの言葉に返事をするメローネはそこにはなく、ただ俺と名前が話していたことが気に食わないといった風だった。

「…しょうがねぇなぁ」

口癖をポツリとつぶやいて、広くなったベンチに一人で座り直し背もたれにぐっと体重をかけて空を見上げる。彼と同じようにゆっくりと目を閉じてみたが俺には何も感じなかった。


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