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▼ 盲目のピアニスト

※(主人公盲目です。導入なので夢要素ありません。)

僕は目が見えない。正確には明るいか暗いか程度しか分からない程視力が悪いと言った方が正しいかもしれない。
医者には心因性盲目であると言われた。強いストレスを受けた為に目が見えなくなったのだと。
「心因性ですから、これから視力が回復することも見込めるでしょう。どうか希望を捨てずに居てくださいね」
それは今でも頭の中ではっきりと再生できるほど鮮明に覚えている医者の言葉だった。

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見えない瞳をしっかりと閉じてイヤフォンから聞こえる音楽に耳を傾ける。もう何度も聞いたこの曲は僕がこれから演奏する曲である。
僕が今いる場所はイタリアでもかなり有名な音楽ホールの控え室。イヤフォンを外してじっと耳をすますとかすかにピアノの音色が聞こえてくる、誰かがリハーサルでもやっているのだろう。
僕にはリハーサルなんて必要ない、『盲目の絶対音感を持つ天才ピアニスト』それが僕の公演に書かれている謳い文句であり、僕の商品名。類稀なる聴覚で一度聞いた曲をそっくりそのまま演奏できる、そんな男の演奏を今何百人もの客が聴きにきている。

「名前、そろそろ舞台裏に移動だ」
聞き慣れたマネージャーの声に部屋を出るように促される。もう何度も歩いたホールであるため道順は既に覚えている。重い腰を持ち上げてゆっくりと部屋を後にする。

廊下の蛍光灯は白い光を発している、と思う。無機質で安っぽい明るさを感じるこの長い廊下には僕とマネージャーの足音が延々と響いている。
ふと足音が増えていることに気づいた、ただちょっとだけ様子がおかしい。一歩一歩とてもゆっくりと近づいてくるその足音はまるで盗人みたいに足音を殺しているのだ。
一応マネージャーの目で確認してもらったが僕ら以外に誰も居ないとのことだった。
「このホール、幽霊でも出るのかな…」


いよいよ舞台上へと続く扉の前、足音は未だに聞こえている。微かな音ではあるが僕にはちゃんと聞こえている。
マネージャーが扉を開けようと一歩を踏み出した瞬間であった。突如廊下にけたたましく響いたマネージャーの断末魔のような悲鳴と、床に落ちたらしき沢山の何かの金属音、顔や体にかかる生温い何かの液体、鉄のような匂い、それがこの瞬間に僕の感じられた全てだった。

「コイツはたしか、ここでコンサートを開くピアニストだったか?資料がないから分からんな…。ただ此処で演奏するのなら有名なのだろう、お前を殺せばきっと警察も大々的に動く…それは俺の本意ではない。」
物々と独り言のように呟かれた言葉は怖いくらい冷静で落ち着いていた、しかしこの低い声の人物を僕は知らない。
「どうしてお前に俺の存在がバレていたのか興味はあるが、今はやめておいてやる。次にお前が俺を見た時は必ず殺す。二度と会わないことを願っているといい」
それだけ言うと低い声の持ち主の足音はどんどん遠ざかっていく。それと同じ方向から向かってくる多数の足音、どれもこれも駆け足でこちらに向かってきている。

「名前さんっ!無事ですか?!」
この声はここのホールのスタッフだ、僕への呼びかけの後に彼の喉がヒュッと鳴ったのが聞こえた。他に駆けつけた者も途端に静かになる。言葉を失うほどの状況なのだろうか。何が起きているのか、盲目の僕には全く分からぬことであった。


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