いつも、一之瀬くん、一之瀬くんとおれの名前を呼びながら後ろにぴったりくっついてくる彼女が泣いている。いつも、笑顔なのに今は泣いている。ぱっちりした二重の目も、ちいさくて可愛い鼻も、いつもほんのりあかい頬も、ぷっくりとした小さなくちも、今は涙をぬぐう手で見えない。
しゃがんで泣いている彼女の下の地面はうっすらと色が濃い。もうどれくらい泣いたんだろうか。おれは、彼女の前に、彼女と同じようにしゃがむ。聞こえる音はいつもより高い彼女の泣き声とグラウンドでサッカーをする円堂たちの声。それだけ。

彼女の泣いてる理由、知りたい気もするし知りたくない気もする。聞いてもいい気もするし聞いてはいけない気もする。おれと彼女の関係って、例えば友達、恋人?片思い、両思い、それ以外?考えてみれば、おれは彼女の笑顔しか知らない。彼女がおれに会いにくる、それだけの関係。電話はもちろんメールすらしたことがないのだ。他からしたらけっこう奇特な関係だったかもしれないけれど、おれにはなんら問題なかった。だって、彼女の季節なんてものともしない向日葵のような笑顔が見れるのだから、それだけで、おれは満足。いつもいつもついて来ていた彼女も、何もアクションを起こしていなかったんだから満足してた。

と思っていたけど


いま、現在進行形で彼女は泣いている。もしかして、おれが、関係してる?(いや、考えすぎか)
でも、おれが何か変なことをいっちゃったのかも(だから、考えすぎだって)
あれ?それよりおれって彼女の何?(何かなわけ、無いだろ)
彼女はおれのこと、どんな風に思ってるんだろう?(好かれてるなんて、そんな自信、ない)


あぁ、なんだか今まで積み上がってたものをがらがらと崩された気分。おれってこんなに弱かったっけ。今のおれって、あのアンパンのヒーローみたい。彼女の涙だけで、ぼろぼろ。鍛えているはずの足にも力が入らない。
小さい頃はあのアンパンのこと、馬鹿にしてたのに、こんなんじゃ馬鹿になんてできたもんじゃなかったなあ。

でも、あのアンパンはまだいいもんだ。絶対に誰かが新しい顔を投げてくれるんだからさ。おれにだって、土門か誰かがいっそ投げつけてくれたら楽なのに。



ぐずり、


音が聞こえてきて、少しあせる。やばい、こんなこと考えている場合じゃなかったんだ。アンパンのことを考えている間にも、彼女は着々と水分を落としていたようで、足元にできた地面のシミは心なしか広がっているような気がする。
ああ、急がなきゃ、いけない。これ以上このシミを広げちゃダメだ。どんどんおれの一部が削られて無くなってしまう。


ぐずり、


あああ、あぁ、もう。おれの取り柄はなんだ、アメリカで培った物怖じしない図太くて大胆な神経じゃないか!そのおれがなんだ、こんなに怖じけ付いちゃって。おれらしくもない。いつもの彼女にだったら怒られてるね、きっと。


「ねぇ、顔をあげてよ」


そしたらさ、おれが、




/にじむきみにくちづけ