冬はさむくてさむくて何をするにも億劫になっちゃう。だけどさ、おんなのこにとっては勝負の季節でもあるの。だってそうでしょ?夏とちがって身につけるものが多いから、せっかく可愛いポンチョとか、ふわふわのスカートとかあまあいブーツを身につけてもひとつ間違えるだけで全部のバランスが台無しになっちゃう。でもね、うまく出来たら1+1は1Oにも2Oにもなると思うの!だからおしゃれは楽しい!しずが可愛いって言ってくれたら私のこころはふわふわと羽のように飛んでいっちゃう。恥ずかしがりやのしずはそんなことは言ってくれないけど、しずがくれた少し長めのあかいマフラーをぐるぐるとまいて行けば笑ってくれるし、よろこんでくれる。それが、とっても、うれしい。




今日はしずとデートなの。もちろん今日もあかいマフラーをぐるぐる巻いてる。わくわくしてはやく支度がすんじゃったから予定よりはやく出てきたんだけど、後悔してる。手先がすごいつめたい。こんなんならカイロも持ってくればよかった。それからもうひとつ後悔。こんなにはやく来なければよかった…、なんで私の目の前に臨也さんが、いるの?

「あっらー?シズちゃんの彼女さんじゃない?」

「…こんにちは、もうすぐしずが来ますよ。」

けっこう嫌味ったらしく言ったつもりだったのに臨也さんは1ミリも気にしてないようで「へー、あの喧嘩人形もいっちょまえにデートなんてするんだ」なんて言っている。ちょっと、あなたはしずのことを何だと思ってるんですか。

「しずって、かわいいやつですよ」

まっくろな臨也さんにそう言うと、彼はいつもの紅くてほそい眼をおおきくみひらいた。効果音は、きょとん。

「君って面白いね、シズちゃんとお似合いだ」

「……それはどうも」

「むしろシズちゃんには勿体無い?ほら、そのマフラーもらったんだろう?真っ赤なんて好みじゃ無いでしょ?」

いったいなんなんだこの人は。なんでこのマフラーがしずからの贈り物ってしってるんだ。いつも何してるのかなあとは思ってたけど、しずのストーカーでもしてるのか。
臨也さんは根は悪いひとではないとは思うんだけど、簡単におはなしできないひとだと思う。すぐ人のあげあしをとるから頭を使わないとまったくついていけなくなっちゃう……って言うほどおはなししたことなんてないんだけど、やっぱり臨也さんは苦手。臨也さんは勘がよすぎる。

しずからもらったまっかなマフラー。はじめてもらったプレゼント。はじめはどんな洋服にあうのかよくわかんなくて、うーんうーんと悩んでたよ。でもさあ、しずはね、きっとすこしくらい変な服をきててもしずがくれた少し長いあかいマフラーをつけて行ったらわたしのだいすきなやわらかあいえがおを見せてくれると思うんだ。だから、好みだとか、好みじゃないとか、関係ないんです。

「それに、よく見てみると深みがあっていい色ですよ」

「……深みがあるっていうか、血みたいな色だよね。」

「………あ、しずがきましたよ〜」

「おっと、長居しすぎたね。じゃあデート楽しんで〜」

嵐のように去っていった臨也さん。残したものは、イラつき。それでも1回もデートの邪魔をされたことがないのは、わたしが中途半端に彼と仲がいいからだと思う。得なのか損なのかはよくわからない。池袋で話題の喧嘩をみてみたい気もするなあ

「わっり、遅くなった」

「ううん、だいじょうぶ」

「そうか。なあ、さっき誰かいなかったか?」

「うーん…いなかった、よ」

そうか?じゃあ見間違いか…なんかノミ蟲野郎が… とつぶやくしず。意外と勘がするどいんだよなあ。 ほら、行こうよ えーっと最初はそうだなあ、美味しいって評判のケーキ屋さんに行こうかな。ぎゅっとしずのおっきなてのひらをつかむと 冷たっ!だって。そりゃあそうよ、冬の女の子の手先だもの。そしたらしずがわたしのちっちゃい手をおっきなてのひらでしっかりと包みこんで、うすく色がかかったサングラス越しにわたしの目を見つめた。どうしたの?って首をかしげると、あのやさしいえがおになって「マフラー、してくれてるんだな」だって。

もう、こっちがまっかじゃない


/とても透明でやさしい幸せ