おれの彼女は、ゆっくりとまばたきする。それも、いつもではなくてたまに。ふと見るとゆっくり目を閉じているかのようにまばたきをしているのだ。







学生時代に付き合いはじめる前からすこし気になっていた。ただたんに鈍いだけなのかとも思っていたが、彼女の運動神経は悪くはない。不思議できになってきになってしかたがなかった。

きになるものは調べ尽くすのが性分なおれは、ある日彼女になぜゆっくりまばたきをするのか聞いてみた。彼女の答えはこうだった。

「なんだか世界を切りとってずうっとのこしておきたいときに、ゆっくりしてみるの」

そういいながらゆっくりまばたきをした彼女を覚えている。その答えをきいて、おれは、なんだか恥ずかしくていたたまれない気もちになって、心臓がぱんぱんになったような気がして、彼女から目をそらしてしまった。今になって思うけれど、このとき、もう彼女はおれのものだった。




それからしばらくたって、自分の感情に気づいたおれは、その気もちをもてあましていた。はじめての気もち、扱いかたがよくわからなくて、つっついてみたり転がしてみたり、結局よくわからなかった。相談しようと言っても、周りにそんなことができるひとはなかなかいなくて、頼みの綱の十代目にきいてみたら、びっくりされて終わった。
リボーンさんなら、アドバイスをくれるんじゃないかと思ってきいてみたら、背中を勢いよく蹴られた。そして一言、

「あたって砕けてくるんだな」




砕ける気なんてさらさらなかったけど、蹴られた背中のいたみがとれない内に彼女に会うためにただ走った。彼女を目の前にすると、やっぱり心臓がぱんぱんになって目をそらしそうになった。だけどじんじんと痛む背中のことを思い出して、ぐっと息をのんだ。

「お前がすきだ、つきあってくれ」

息を吐きだすと、ぱんぱんだった心臓がもっともっと、はちきれんばかりにふくらんで、倒れてしまいそうになる。だけど彼女の答えをきくために、ふんばって、かおをあげて。
「うん、」と言って、ゆっくりまばたきをしている彼女が見えた。その瞬間、おれのからだは彼女のからだをつつみこんでいた。ゆっくりと背中に回された手が、むずがゆくてうれしかった。







「なあ」
「なあに、隼人」
「5年もたったんだな」
「そうだね、昨日できっかり5年。」


あれから5年ものときがすぎて、おれはあのときの彼女とずっと一緒にすごしている。もちろんけんかなんかもたくさんしたけれど、おれたちは今、一緒にいる。彼女は大学生に、おれはマフィアになった。
そして、明日、おれはイタリアにいく。


「イタリアだな…」
「そうだね、いってらっしゃい」
「お前はいかないんだよな」
「ごめんね」
「いや、……なぁ、おれが死んじまったらどうする」
「隼人は強いじゃない」
「もっと強いやつがいるかもしんないし…」
「ふふっ、沢田くんが守ってくれるよ」
「そう、だな……」



「なあ」
「なあに?」





結婚してくれ





昔のおれは、告白するだけで胸がいっぱいだった。だけど今、こどうで鼓膜が破れそうなくらいだけど苦しくなんかない。5年って、長いよなあ。
彼女はあまり変わってないように思う。5年は長いけど、癖がかわってしまうほどではないのだ。


「けっこんって…」
「そのまんまだよ、おれがイタリアにいくから、この機会に」
「……ちょっと、まってよ」


……ちょっと早すぎたかもしれない。おれはイタリアにいくけれど、彼女はまだ大学生なんだ。結婚なんてして、しばられたくないかもしれない。おれも彼女も、恋愛経験、少ないから。
でも、後悔しないと思ったから、言ったんだ。もう一回だけ言うから、お願いだから


「結婚してください」





今度こそ、彼女を見ていようと、見ていたいと思った。やさしく笑ってくれ

「うん、」

前と同じで、やっぱり彼女はゆっくりとまばたきをした。なんだかすごくうれしい、すごく泣きたいよ、おれ。



目をひらいた彼女から、なみだがこぼれたことにひどく安心した



/魔法をかけてあげようか
◎レオン様へ