昼休憩の時間帯。クラスの注目は一人の女生徒へと向いていた。彼女はそんなクラス中の視線を気にも留めず購買で購入してきたパンを齧り咀嚼しているところであった。
話題は数分前に遡る。
みょうじには恋人がいる。相手は同じクラスの爆豪だ。ヒーロー科であろうと心は年相応に恋愛ごとへ興味関心があるというのが女心。
芦戸は興味本位からある質問をみょうじへと投げ掛けた。
「爆豪ってみょうじにはどんな感じなの?二人きりの時とかさ」
「んー…あんなん」
ぴ、と立てた親指で指し示した先には、既に昼食を終えて今しがた教室へ戻ってきた渦中の彼がいた。その表情は如何にも不機嫌そうで、うっかりぶつかりでもすれば噛み付かれそうなほどの形相である。
そんな爆豪をちらと一瞥した芦戸は、「げ」と一音漏らした。
「ていうか…みょうじは爆豪のどこが好きなの?」
「うちも聞きたい」
「あっそれ俺も気になる!」
考えてみても全く分からない、といった具合に首を傾げながら出て来た芦戸の言葉に、女子だけではなくそれまで静観していた上鳴も食い付いた。
その他のクラスメイト達も、会話に混ざりこそしなかったが彼女の返答が気になったのか耳をそばだて、一瞬教室がしんと静かになった。
それは件の彼も例に漏れず、机に頬杖をついたままその眉間に皺を寄せながらも其方へと意識を集中させている。
先程まで咀嚼していたメロンパンを紙パックの紅茶で流し込んだみょうじの口から飛び出たのは、思いもよらぬ言葉であった。
「顔」
「え?」
顔。
聞き返されたと思ったのか、もう一度同じ言葉を繰り返すみょうじであったが返答の中身よりもみょうじの後方から彼女を睨み付けている爆豪が気に掛かり、不味いと思ったのか芦戸は別の回答を引き出そうとする。
「あー、そうなんだ…じゃあ2番目は?」
「…顔かな。それとあと、…顔」
しかし、そんな彼女の気遣いには全く気が付かず火に油を注いで行くみょうじに、芦戸は頭を抱えた。
そして点火したばかりの爆弾は、上鳴の言葉によって爆発する。
「あぁなんか納得。あいつ性格下水道みたいだもんなぁ」
「うん」
「んッだとてめぇクソアマ!!!」
恋人であろうと構わず襟首に掴み掛かり、みょうじを睨み殺さんばかりの鬼の形相である。そんな爆豪に少しも臆さず、みょうじはたった今手にしていた紅茶のストローに口を付けていた。
「勝手に飲んでんな殺すぞ」
間近な距離で凄まれるがみょうじには効かず、まだストローを吸っている。
爆豪の顔をじっと見て、なにか思い出したように「あ」と声を上げるみょうじに、爆豪の赤い瞳が揺れた。
ゆっくりと目を細め口端を上げながら、みょうじは爆豪の左右の頬を手の平で優しく包み込むように触れる。その彼女の柔和な笑みに、彼は一瞬呼吸するのを忘れた。
「やっぱり、顔が好き」
彼女だけに見せる爆豪の顔が、みょうじは大好きだ。
話題は数分前に遡る。
みょうじには恋人がいる。相手は同じクラスの爆豪だ。ヒーロー科であろうと心は年相応に恋愛ごとへ興味関心があるというのが女心。
芦戸は興味本位からある質問をみょうじへと投げ掛けた。
「爆豪ってみょうじにはどんな感じなの?二人きりの時とかさ」
「んー…あんなん」
ぴ、と立てた親指で指し示した先には、既に昼食を終えて今しがた教室へ戻ってきた渦中の彼がいた。その表情は如何にも不機嫌そうで、うっかりぶつかりでもすれば噛み付かれそうなほどの形相である。
そんな爆豪をちらと一瞥した芦戸は、「げ」と一音漏らした。
「ていうか…みょうじは爆豪のどこが好きなの?」
「うちも聞きたい」
「あっそれ俺も気になる!」
考えてみても全く分からない、といった具合に首を傾げながら出て来た芦戸の言葉に、女子だけではなくそれまで静観していた上鳴も食い付いた。
その他のクラスメイト達も、会話に混ざりこそしなかったが彼女の返答が気になったのか耳をそばだて、一瞬教室がしんと静かになった。
それは件の彼も例に漏れず、机に頬杖をついたままその眉間に皺を寄せながらも其方へと意識を集中させている。
先程まで咀嚼していたメロンパンを紙パックの紅茶で流し込んだみょうじの口から飛び出たのは、思いもよらぬ言葉であった。
「顔」
「え?」
顔。
聞き返されたと思ったのか、もう一度同じ言葉を繰り返すみょうじであったが返答の中身よりもみょうじの後方から彼女を睨み付けている爆豪が気に掛かり、不味いと思ったのか芦戸は別の回答を引き出そうとする。
「あー、そうなんだ…じゃあ2番目は?」
「…顔かな。それとあと、…顔」
しかし、そんな彼女の気遣いには全く気が付かず火に油を注いで行くみょうじに、芦戸は頭を抱えた。
そして点火したばかりの爆弾は、上鳴の言葉によって爆発する。
「あぁなんか納得。あいつ性格下水道みたいだもんなぁ」
「うん」
「んッだとてめぇクソアマ!!!」
恋人であろうと構わず襟首に掴み掛かり、みょうじを睨み殺さんばかりの鬼の形相である。そんな爆豪に少しも臆さず、みょうじはたった今手にしていた紅茶のストローに口を付けていた。
「勝手に飲んでんな殺すぞ」
間近な距離で凄まれるがみょうじには効かず、まだストローを吸っている。
爆豪の顔をじっと見て、なにか思い出したように「あ」と声を上げるみょうじに、爆豪の赤い瞳が揺れた。
ゆっくりと目を細め口端を上げながら、みょうじは爆豪の左右の頬を手の平で優しく包み込むように触れる。その彼女の柔和な笑みに、彼は一瞬呼吸するのを忘れた。
「やっぱり、顔が好き」
彼女だけに見せる爆豪の顔が、みょうじは大好きだ。
シリウスの心臓