雨宿り

香×紬
※未来のお話になってます。



仕事からの帰り道。
今日は患者さんも特に問題無く、引き継ぎも順調に済み
久しぶりに定時に上がれる様になったからと紬と待ち合わせをして2人でご飯を食べて帰った。

でも、それが悪かったのか、僕達が店を出る頃には薄く鼠色掛かってた空は本格的な雨模様を告げていて
急いで帰ろうとしたけれど間に合わず、一先ずは小さな洋食屋らしい店の軒先で雨宿りする事になった。

二人ともびしょ濡れな姿でいる為、店に入るのも躊躇っていて
軒先に居るのも迷惑かと思ったけれどこの天気の中、家まで帰る気力も無かった為にそのままお邪魔させて貰っていると
店の人らしい少し恰幅の良いおばさんが微笑いながら、テントみたいな屋根の部分を大きくしてくれた。

「こんな所もあったんですね」

「そうだね。
今まで気付かなかったよ」

長い事ここあたりに住んでるけれど、こんなお店が有る何て初めて知った。

不規則的な生活の中で忙しなく生きているから仕方ないと言ったら仕方ないけれど、ほんの少しだけ勿体無い気分になる。

「ですね……。
でも知らなかったからこんな風に香さんと一緒に新しくお店を発見出来たんですから
何だか少し得した気分になります」

にっこりと、子供みたいな笑顔で言ってくる紬。

ついさっき僕自身が勿体無いと思ったばかりの事をそう言ってプラスの言葉に変えてくれる。
あまりにもタイミングの良い言葉に僕は軽く目を見開いた。

「今まで気付かなかったモノにこうやって気付いたって素敵な事だと思うんです。
特に香さんと一緒に同じモノを気付けたなんて特にそう思います。
気付かせてくれた雨に感謝ですね」

なんて本当に嬉しそうに言ってくるから、僕の頬もつい綻んでしまう。

昔は少しネガティブな思考に行きがちだった紬は、いつの間にか僕のマイナスな考え方すら払拭するようになっていて
人の命と向き合うこの仕事に就いてからは幾度と無くそんな紬の言葉に救われる様になって
その度に、やっぱり紬には敵わないなと実感する。

それと同時に心が温かくなった気がして、思わず紬を抱き締めたくなった。

昔みたいに激しく胸を打ったりとか、気持ちのまま突っ走りたくなる衝動はもう無いけれど、この気持ちに際限は無くて。
返事をしない僕を不思議に思ったのか、顔を覗き込んできた紬に少し笑ってそうだねって返した。

「ねぇ紬。
今度の休日には此処にごはんを食べに行こうか」

「良いですね。
軒を貸して貰ってるお礼もしたいですし」

「そうだね」

肌は少し寒いけど僕の心は温かくて

ザザ降りの雨の中
この小さな店でのデートの予定を楽しみにしながらも、もう少しだけこの2人の空間を楽しみたいから。

もう少し
後もう少しだけ
雨が止まないで欲しいと願ってみた。


end


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