欠片
僕と玲君は時々、不思議な位にお互いの気持ちや行動が解る事が有る。
しかもお互いが全くの無意識の中で、だ。
マンション近くの自動販売機の前。
何となくお茶を買ってみる。
普段飲まないクセについ押してしまったボタン。
「………何で買ったんだろう?」
しかも名前が「超絶カテキン茶」なんて訳のわからないネーミングのお茶。
まぁ買ってしまったのはしょうがないと、普段から飲むコーヒーも一緒に購入する事にした。
目的のモノも購入してやり場に困ったお茶をどうしようかと悩みながらマンションに戻ろうとしたら
「あっ玲君」
「翔ちゃん…」
僕の部屋で寝ていた玲君が外に出ていた。
「何処行くの?」
「ちょっとお茶を買いにそこの自販機へ」
わぁー。
すごい偶然。
「なら、此飲む?間違って買ったんだ」
「本当?ありがとう」
「どういたしましてー」
変なネーミングだけどお茶には変わり無いからと差し出すと、玲君は喜んでくれた。
良かった良かった。
「あっ…しかも俺が飲みたかったヤツだ」
……………わぁー。
すごい偶然。
それから数日後の本屋でも。
「欲しい新刊って何故か固まって出る事が多いよねぇ……」
「そうかなぁ?」
本を読む事が好きな玲君に付き添って今日は本屋さんデート。
細い腕で見ている方が大変だと思う程に積み重ねた本を抱えながら呟く玲君だけど、僕からしたらいくら固まって出るからと言ってもそこまで買おうとする人もなかなか居ないと思う。
「ねぇ。玲君」
「ん?」
「買いたかった本が有るんだけど、タイトル忘れちゃった」
「………また?」
「……………うん。白と黒の表紙だったのは覚えてるんだけど…」
「んー……白と黒の表紙………あっ。
もしかしてコレだったりして」
そう言って冗談めかしながら玲君は持っていた数冊の文庫本から一冊を抜き取る
「………………れーくん」
「ん?」
「欲しかったヤツ…ソレ」
「……………マジで?」
その他諸々。
本当に不思議。
時々、玲君以上に僕が、僕以上に玲君がお互いを理解してしまう瞬間があって
その度にひょっとしたら、俺達の前世はひとつのモノだったのかな?って考えてしまう。
それでお互いに自分達の欠片を持ったまま生まれ変わったから、お互いが解るのかもしれない。
「なぁんてね」
前世や生まれ変わり何て信じてないけどそうだったらいいな何て
目の前に居る玲君を見ながらそう思った。
「れーいくーん」
「ん?」
「今、キスしたいって思ったデショ?」
「………それは翔ちゃんの方でしょ?」
「あはは。バレたか」
でも、玲君がしたいと思ったのは本当でしょう?
だって僕達はきっと同じ欠片を分け合った者同士なんだから。
end
短編小説「最終電車」の2人の話。
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