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「ねえ」
名前ちゃんはずずいと翔くんに近づきました。な、なんだよ、と翔くんは台本から顔を上げます。
「翔ちゃんさ、お仕事でツイッターしてるでしょ?」
「あー、それがどうかしたか?」
「プライベートのアカウント、持ってるんじゃないの」
「…は」
翔くんはぽかんと口を開けます。名前ちゃんは、どうなのよ、とますます翔くんに近づきました。翔くんはだんだん近くなる名前ちゃんの顔を見つめながら首と手を横にぶんぶん振ります。
「ば、ばか!そんなの持ってねえよ!」
「…どもった」
「うるせえ!お前じゃねえんだからツイッターしてるくらいなら台本読むなり歌の練習するなりして有意義に時間を使うに決まってんだろ!」
「んー、そうかなあ」
「大体俺がツイッターしてるのも事務所からの命令だからであって、普段お前といるときにツイッターなんかしてねえだろ」
「うん。…わたしといるときはね」
「嫌な言い方すんな!」
翔くんはゼーハーと息を荒げながら否定しますが、翔くんが必死になればなるほど名前ちゃんは信用できなくなっていきます。不安は募る一方です。
「翔ちゃん随分必死だね。言い訳してるから?嘘を隠したいの?」
「おい…、そろそろ怒るぞ」
「浮気、してるんでしょ」
「…おまえ」
じろり。翔くんは名前ちゃんを睨みつけました。明らかな怒りを感じますが、そんなことでは引き下がれません。名前ちゃんはごくりと唾を飲むと、翔くんから顔を離しながら言いました。
「女の子と2ショットの翔ちゃん、ツイッターで見つけた」
「は…?」
「すごく、かわいい子」
名前ちゃんの声は震えていて今にも泣き出しそうでした。翔くんはふう、と息を吐くと、優しく名前ちゃんをぎゅうっと抱き締めました。名前ちゃんは抱き締め返すでもなく、拒むでもなく、翔くんの腕の中で震えていました。
「お前はそういうの探してくるのが好きだな」
「ちがう、もん、ほんとに翔ちゃんだった…」
とん、とん、翔くんの手が名前ちゃんの背中を優しく叩きます。まるでお母さんが小さな子を寝かし付けるときのような手つきです。心地よいリズムとぬくもりに名前ちゃんはついに涙をこぼしてしまいます。
「…っ、ぅ」
「あーあ、ばかだなあ」
肩にかかる熱い吐息と嗚咽で名前ちゃんが泣いていることを察知した翔くんは背中を叩いている手と反対の手で名前ちゃんの頭を優しく撫でました。本当に優しくて、男の子の手です。
「俺はさ、こんなにお前のこと好きなのに、浮気しなきゃなんねえのか?」
翔くんの顔は見えませんが、耳元で聴こえる、優しくて大好きな翔くんの低音に名前ちゃんはふるふる首を横に振ります。
「ちがう、け、けど、見たんだよ…?」
「俺、どんな服着てた?」
「私服、みたいな」
「本当に俺の私服?その服で雑誌の撮影とかもしてなかったか?」
「…、あ」
名前ちゃんの短い言葉に翔くんはフッと笑みをこぼしました。そして、やっぱり俺の相棒は可愛くて仕方ねえな、とときめくのです。翔くんはぎゅうううっと名前ちゃんを抱き締める腕に力を込めました。
「それ、ぜってえ合成。よくアイドルファンがするだろ。お前だってこの前してたくせに」
「あ…、」
「そこまで頭回んなかったか?」
翔くんは腕を離し、名前ちゃんの顔を覗き込みます。名前ちゃんは自分の勘違いにぼっと顔を赤に染めていましたが、翔くんは優しくニッと笑って見せるだけで、浮気扱いした名前ちゃんを責めたりしません。名前ちゃんは安堵と共にさらに翔くんのことを好きになりました。
「翔ちゃん、ごめんね…」
「いや、むしろ不安にさせてごめん、もっと愛していかねーとな!」
「…、じゃあ、ちゅーして」
真っ赤な顔でそんなことをお願いするものですから、翔くんも釣られてぼぼっと顔を赤に染めます。急に何言ってんだよと怒鳴る前に名前ちゃんは知らんぷりしてそっぽを向いています。拗ねたように、でも期待しているように、そっと唇を尖らせている名前ちゃんに、翔くんは笑いながらため息をつきました。
「ったく…、手間のかかる相棒だな」
翔くんは優しく名前ちゃんの唇に自分のそれを重ねました。
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私自身地雷の多い人間ですが、毎度こう考えて生きています。(イタイ)
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