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「避妊ってちゃんとしてるのか?」
「…否認?」
彼が首を傾げると、レンはクスリと口元を緩ませた。
「避妊だよ避妊。はいこれ、プレゼント」
そう言って彼に手渡されたのは、コンドーム。一瞬フリーズした彼だが、すぐに顔を真っ赤にした。
「なっ…な、レン!!」
「レディーのことを大事にしなくちゃモテないよ」
そう言ってレンは彼の肩をぽんぽんと叩くと、意味深な笑顔と共に去っていった。
(( 限界 ))
(今日の翔ちゃん、何か変)
彼女は眉を顰めた。まず1回も彼女を見ようとしないし、話し掛けても反応が薄い。
(何かあったのかな?…って言うよりきっと、)
少しだけ彼と距離を縮めようとぐっと数センチ体を彼に寄せると、彼は異常にびくりと肩を跳ねさせ、数センチ後ろに動き彼女を避けた。
(やっぱり、私だ…)
彼の顔をじっと見つめる。彼は彼でその視線から逃げるように顔を背けた。
「…翔ちゃん、」
「ん?」
「私、何かしたかなぁ?」
「な、…何でだよ」
ちらり、と気まずそうに視線を寄越す彼は、明らかに焦りの色を見せている。彼女がきゅうと下唇を噛むと、彼も落ち着きなく帽子を触った。
「べ、別に、何もねぇから…」
「………」
「ほんとに…何もねぇよ」
「………」
気まずい空気が流れる。お互いが自分のせいでこうなったと思い込み、ますます気まずくなる。どんどん俯いてしまう彼女に視線を泳がす彼。沈黙が続き、口を開くことも気まずくなる。
(やっぱ、私のせいだ…嫌われたことしたはずなのに、全然分かんないよ…)
じわぁっと涙で視界が揺らいだ。自分の情けなさに泣きそうになりながらもここで泣くともっと気まずくなることは百も承知で、ぐぐっと我慢する。
「……名前?」
「…ッ、」
しかしそれは無駄な足掻きで、すぐに見破られてしまった。彼は彼女の二の腕を掴んでこちらを向かせ、顔を隠す腕まで強引に引っ張って退けて。
「何泣いてんだよ…」
「泣いて、ない」
彼には別の焦りが出てくる。困惑しているが心配もしてくれている、というところだ。彼女はそんな彼にきゅうと胸が鳴り、ますます自己嫌悪に陥った。
「名前」
「…やー…」
「やー、じゃなくて。俺、何かしたか?」
「ち、が…」
「名前。言わねぇと分かんねぇ」
「………」
さっきまで距離をとっていたくせに急に詰め寄られる。本気で心配してくれているということが伝わってきた。
「翔ちゃん、私に隠してる…」
「…は?」
「………」
「何を……あ、」
ぐす、と鼻をすすると、彼は何か思いついたかのように一瞬目を大きくして、それから彼女をぎゅうと抱きしめた。
「しょ、翔ちゃん?」
「悪かった」
突然のことで腕のやり場に困る彼女にはお構いなしに彼は大事なものを触るように優しくしっかりと彼女を包む。周りからしたら小さいと言われる彼も肩幅は男の子だと感じさせて、しっかりした腕や胸もまた彼女をどきどきさせた。
「しょ、」
「俺が変な態度とってたの、お前のこと意識しまくってて…」
「え?」
語尾が消えていくように弱くなる。照れているのか、彼女の肩に顔を埋めた。
「今日、レンに、その……ち、ちょっと、大人の話しを、聞いて…」
「…あぁ」
なるほど、と彼女は呟く。まだ経験がないであろう彼にとっては刺激的な内容だろう。羞恥で震える彼の声がそれを物語っている。
「翔ちゃん」
「な、何だよ」
「可愛いね」
「ッはぁ?!」
可愛い、というのは馬鹿にされているようで好きじゃないと彼は言っていたが、本当に可愛いのだから仕方がない。彼は彼女から体を離し、つんとそっぽを向いてしまう。
「どうせレンと違ってガキだよ俺は」
「ふふ」
「何笑ってんだよ!お、俺だってなぁ!」
キッと彼が睨んでくる。赤面こそしているが負けず嫌いに火をつけたらしい。
刹那、ちゅ、と唇に一瞬だけ唇が重なった。本当に一瞬だけでパッと離れてしまったが、彼女の心臓を暴れさせるには十分すぎて。
「お、俺だって、これくらいは余裕でできんだよっ」
彼女を睨みながらそれだけ言うと、また顔を背けてしまう。しかし顔を見なくても彼がどんな顔をしているのかは分かっていた。
「翔ちゃん、ありがと」
「こ、これからもっとすげぇことしてやるからな!覚悟しとけ!」
「うん、楽しみにしてるね」
「お、おう!」
後ろ姿だけだが、下を向いてしまった彼が可愛くて真っ赤になっている耳にもきゅんとする。彼女は思わず後ろから彼を抱きしめた。
(もう名前の顔見れねえぇえぇえ!!!)
END
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ウブな翔ちゃんを書きたかっただけの本当にオチのない話でごめんなさい(笑)
名前様、お付き合いありがとうございました。
20111009
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