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※HAYATO視点/病み気味




ボクは皆に好かれていたのに、愛されていたのに。ボクはお仕事が大好きだった。皆の笑顔を見られるのがとっても楽しみだった。皆を元気にさせてあげるのがボクのお仕事だけど、ボクは皆の笑顔で元気にされてた。皆がボクを愛してくれるのと同じくらい、いや、それ以上にボクは皆を愛していた。もちろん皆だけじゃない。名前ちゃんだってそう。ボクは名前ちゃんが好きだった。名前ちゃんもボクを好きだった。でも名前ちゃんはアイドルとしてのボクが好きだと知っていた。それでもボクは1人の男として名前ちゃんを想っていた。ボクの歌に笑顔を見せてくれる名前ちゃんが大好きだった。テレビやライブを必ず見てくれる名前ちゃんが大好きだった。アイドルとしてのボクでもいい、ずっとボクを見ててほしかった。

なのに、トキヤはボクを殺した。

トキヤが苦しかったのは知っていた。だから、トキヤは悪くない。でもボクは死んだ。ファンを裏切る形で、ボクは死んだ。ボクはただ皆を愛していただけなのに裏切り者扱いされた。トキヤが演じてたって言われたけど、違う、ボクはHAYATOだよ、トキヤじゃない。皆分かってくれなかった。ボクはトキヤの中にいるのに、何で。トキヤもボクを知らんぷりした。名前ちゃんの彼氏になって、トキヤとしてアイドルデビューした。もうボクを見てくれる人はいなくなった。名前ちゃんはトキヤのことを1人の男として見ていた。ボクはトキヤには敵わないと思った。ファンだってボクのこと好きで見ててくれたと思ってたのに所詮顔だった。すぐにトキヤに乗り換えた。同じ人物だから乗り換えたんじゃなくて受け入れただけだって、分かってるけど、ボクは納得いかない。ボクとトキヤは違うって誰も分かってくれない。ボクは泣いた。いっぱい泣いた。でも、誰もボクを見てくれない。誰もボクの名前を呼んでくれない。ねぇ、ボク、ここにいるよ。助けて。苦しいよ。



「名前、ちゃん…」

心の中で叫び続けたら声になった。懐かしい、この感じ。ボク、声が出せてる。

「名前ちゃん…、名前ちゃん」
「…トキヤ?」

目が、開かない。ボクが泣いてることは分かる。でも、目が開かない。名前ちゃんはボクを心配するように近くへ来た。いや、ボクじゃなくて、トキヤを心配してるのかな。

「トキヤ、じゃない…名前ちゃん、」
「はや、と、さま…?」

名前ちゃんがついにボクの名前を呼んでくれた。嬉しくて、ボクはますます涙を流した。すき、名前ちゃん、ボクきみのことすごくすきだよ。

「名前、ちゃ、」

上手く言葉にならない。好きなんて言葉、きっと名前ちゃんはトキヤからいっぱいもらってるはず。どうしたらこの気持ちが伝えられるんだろう。伝えてどうするんだろう。ボクはもう死んでるのに。こわい。名前ちゃん、ボクこわいよ。

「名前ちゃん…ボクはもう、いらない子、なの…?」

ボクの声は震えていた。こわくて仕方なかった。いらない子って、自分で言って傷ついた。大好きだった皆に忘れられて、名前ちゃんにも忘れられたら、ボク、本当に死んじゃう。こわいよ、死ぬのはこわいよ。

「HAYATOさま」

名前ちゃんは優しい声で言った。

「HAYATOさまは私の憧れの人です。一生忘れることなんてありません。HAYATOさまは私の光でした。これからもずっとです。HAYATOさまはいらない子じゃないんですよ」

名前ちゃんは耳元で優しく丁寧に言ってくれた。嬉しかった。ボク、拒絶されなかった。いらない子じゃないってほんとかな、ボクトキヤみたいに名前ちゃんに愛されることはできないけど、名前ちゃんのことを愛すことはできるよ。だから、ね、トキヤの中で、あとちょっとの間だけでも、名前ちゃんのことを愛させて。ボクは開けなかった目を開けることができた。いつもボクを見てくれてた優しい笑顔で、名前ちゃんはボクを見てくれていた。

「名前ちゃん…、ありがとう、嬉しいにゃあ…」
「HAYATOさま…?」
「もう、いくね。名前ちゃん、だぁいすき」

ふわっと笑顔を見せた。いつもファンに見せてたような笑顔じゃなくて、心の底からの笑顔。名前ちゃんも笑ってボクを抱きしめてくれた。嬉しくて、嬉しくて、ボクはとっても気分が良くなった。トキヤに名前ちゃんを任せるなんて言いたくないけど、トキヤくらいしっかりしてたら大丈夫だよね。トキヤの中で名前ちゃんのことずっと見てることにするよ。名前ちゃんのことずっと大好きだからね。




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トキヤさんが風邪を引いて寝言がHAYATO口調になったときありましたよね。あれを思い出したら衝動的に書いてました。HAYATOはすごく寂しがり屋で無自覚でトキヤさんに恨みを持ってると思います。そんなどろどろを書きたかっただけです。やなお話ですみません(笑)
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