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今日は曲について細かい合わせをするために彼の部屋へ行った。合わせも順調に進んだし、何より彼と一緒に居られるだけで彼女は幸せだった。
…だったのだが。




(( だいすき ))




「翔ちゃん可愛いです〜」
「やっ、やめろぉおぉおぉっ!!!」

翔が練習から帰ってきた途端、先程までの時間などどこかに行ってしまったようだ。ちくりと胸が痛む。

(パートナーの私を放っておいて翔くんにデレデレするなんて…)

彼は翔のことが大好きだ。そんなことはずっと前から知っている。それでもパートナーである前に恋人である彼女を放っておけば嫉妬くらいするだろう。

「…なっちゃんのばかぁ…」

小さく呟いてみたがそんなもの彼等の耳に入るはずがない。ぎゅうううっと翔を抱き締める彼を睨みつけながら彼女は荷物を整理して出ていこうとする。

「あれ?名前ちゃん帰っちゃうんですかぁ?」
「………」

じゃれているくせに自分のことを見ていてくれたのかと思うとドキッとしたが、彼を無視してドアを荒く閉めた。可愛くないのは自分でも分かっているが翔の前で恋人同士だとバラすわけにもいかず、嫉妬したままでは居られない。苛々と廊下を歩くと彼は直ぐに彼女を追ってきた。

「名前ちゃん!」

追ってくることを期待していなかったわけではない。寧ろ待っていた。ちらりとそちらを向くと翔の姿はない。翔もびっくりしているはずだ。

「…なに」
「どうしたんですかぁ?」

冷たく言い放つと困ったように首を傾げる。本当に乙女心が分かっていない。犬が耳を垂れさせているようにしょんぼりしている彼に少しだけ胸が締め付けられた。

「なっちゃんは翔くん好き?」
「はい、大好きですっ」

急にぱあっと顔が明るくなった。気に食わない。あからさまに眉を顰めてしまう。

「じゃあ、私は?」
「え?」
「私は、好き?」

ちょっと嫌な女になってしまったかもしれない。半ば睨みつけながら訊くと彼はふわりと笑顔を見せ、彼女の頬をそっと手で包んだ。

「どうしたんですか、名前ちゃん?」
「…っや、」

ぶわぁ、と急に溢れてきた涙は不安からだろうか。親指で拭われてから初めて泣いていることに気付いた彼女は、泣き顔を見られたくなくて目を逸らす。それなのに彼は両手で顔を包んだまま逃げることを許さなかった。

「僕は名前ちゃんのことが だぁいすき ですよ」
「…っふ、ぅ…ッ」
「大好きで大好きで仕方ないです」

頬から手が離れたと思ったら優しくぎゅうと抱き締められた。それから宥めるように何度も何度も頭を撫でられて。

「なっちゃん、はぁ…っ小さいもの、が、かわい、くて…好き、な、っだけ…でしょぉ…?」
「ふふ、そうかもしれませんね」

優しく頭を撫でられて少しだけ落ち着いてきたのに彼の言葉にまた涙が溢れる。ずきんと胸に針が刺さったように痛み、訊いたことを後悔した。

「じゃあ、なっちゃんは…私の、こと…っ」

好きじゃないよ、と言おうとしたらその前に彼の唇で口を塞がれてしまった。びっくりして目が開きっぱなしになっている彼女に目を細め、ちゅ、と小さく音を立てて彼は離れていった。

「でも、名前ちゃんは特別みたいです」
「とく、べつ…?」
「はい。名前ちゃんは可愛くて大好きだけど、他の可愛いものとは違うんです。どう違うのかを説明することは難しくて上手く言えませんが、何だかすごくドキドキして、僕は名前ちゃんに恋しているから大好きなんだと思います」
「!」

カァッと頬が染まる。彼がそんなことを言ってくれるなんて意外で、さらに涙が止まらなくなった。

「ぅ、え…っ、ぐすっ…」
「ほらほら、泣かないでくださーい」
「だっ、てぇ…ッ」
「そんなに可愛いお顔してたら襲っちゃいますよぉ?」
「っ、ふぇ、え…!?」

思わず彼を見上げるといつも通りの優しい笑顔。それは聞き間違いかと思うくらいにナチュラルで。

「なっ、ちゃ…っ」
「ふふ、びっくりしました?でも、僕も男なんですよぉ」

言うはずないと思っていた単語だったのでしぱしぱと瞬きを繰り返していると親指で唇をそっと撫でられた。ふにふにと感触を確かめるかのようにいじられた後そのまま口の中へ入れられ、舌をゆっくりなぞられて。

「名前ちゃん、すごくえっちなお顔してますよぉ」
「なっひゃん、ここ、廊下、ッんぅ…っ」
「えー?何か言いましたかぁ?」
「んぅ…っ、ふ、」

(今日のなっちゃん、意地悪だぁ…っ)

砂月でもなく、那月がこれほど彼女を虐めるのは初めてで。静かな廊下にちゅくちゅくと水音が響く。次第に彼女の目にも欲情の色が混ざってきた。こんな彼も良いと思っている彼女もなかなかのMになってきている。彼は相変わらずな天使の微笑みで彼女の腰を抱き寄せた。




END

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翔ちゃんとなっちゃんって仲良いよなぁ…→私もなっちゃんみたいに翔ちゃんをぎゅうってしたいなぁ…→でももし私がなっちゃんの彼女だったら妬かないかな…いや妬くよなぁ…→ハッ…!!
という経緯で書きました。本当に自己満な小説で申し訳ないです(笑)
名前様、お付き合いありがとうございました。

20120118
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