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※主人公視点




「はあー…」
「…お前さ、」

私がPSPを抱きしめながらため息をついていると、翔ちゃんが後ろから私の肩にずしりと体重をかけてきた。

「最近何やってんだよ」
「………」

後頭部に軽くこつんって頭突きされてハッとなった。だらだらと変な汗が出てきたのが自分でも分かった。




(( 浮気相手 ))




翔ちゃんがお風呂行ってる間だけって思ってたのに、PSPに夢中で翔ちゃんが出てきたのに気づかなかった。私がやっていたのは恋愛ゲーム。最近このゲームに出てくる金髪の男の子にお熱なの。

「なあ名前」

翔ちゃんは私をぎゅーってしながら私のPSPに手を伸ばす。でもこれ見られたらだめ。だって恋愛ゲームだもん、引かれたりしそうだし、だめ。

「っ…やぁ」
「何だよ」

絶対渡せない。腕の中で私もぎゅうううってPSPを抱きしめる。翔ちゃんはムスッとして私から離れた。

「最近お前態度変だぜ」
「へ、へん…?」
「恋してるみてぇ」

私に背を向けながら髪をタオルで拭き、翔ちゃんは冷蔵庫を開ける。私はそれを慌てて追った。

「こ、恋って、翔ちゃんに恋してるじゃん」
「そうじゃねーよ。なんつーか…、俺以外の誰かに、つーかさ…」

翔ちゃんは冷蔵庫の中から牛乳を取り出し、コップに開ける。その光景を眺めることしかできない。図星すぎる。

「……翔ちゃん」
「好きな奴できたんならさ、…言えよ」

牛乳を飲む翔ちゃんはすごく寂しそうで、自分の発言に傷ついてるみたいだった。そんな顔はさせたくないけど、だって、恋愛ゲームでしたなんて打ち明けたら引くでしょ?

「好きな人なんか、翔ちゃんしかいないよ」
「…そうかよ」
「ほんとだって、」
「じゃあ最近様子がおかしいのは何でだ?」

翔ちゃんは口の周りについた白いヒゲをぐいっと拭う。

「携帯もよく見てるし、なんか楽しそうだよな」
「それは…」

その恋愛ゲームのキャラからメールがもらえるサイトがあって、そこから来てるだけなのに。完全に浮気だ。

「しょ、翔ちゃん…」
「……」
「あのね、浮気じゃないよ…」

何だか声が震える。浮気じゃないなんて言ってもこれじゃあ浮気だ。なんて言ったらいいんだろう。

「私が好きなのは翔ちゃんで、でも、翔ちゃんに似た人を見つけちゃって、翔ちゃんが構ってくれなくて寂しいときにその人に優しくしてもらって、あの、えっと、」

だめだ、これじゃあ浮気決定だ。話せば話すほど訳分かんなくなる。翔ちゃんはじっと私のこと見てたけどコップを置いて、私の頭を撫でた。

「別に浮気だって責めることはしねーよ。俺がそれだけの男だったってことだ。…でもお前が自分の気持ちに嘘ついて俺といるのは、嫌だ」
「翔ちゃん…」
「すっげー嫌だけど、お前がそいつのこと好きなら、別れてやるよ…」
「っ…そんな」

私はぶわっと涙が出てくるのが分かったけど、泣ける立場じゃないから涙を堪えた。翔ちゃんそんなにあっさり別れてもいいなんて言っちゃうの?って思ってびっくりして上手く声が出ない。翔ちゃんは、あーくそほんとはすっげーやだよ!なんて言ってるけど、だったらもっと引き止めてよ。浮気じゃないよ翔ちゃん、私には翔ちゃんしかいないよぉ。

「ごめ、なさ…っ、翔ちゃんがいるのに、わたし、っ」
「名前、」
「げ、ゲーム、してたぁ…っ」
「………。は?」

零れそうな涙を必死に堪える。すっごいぶさいくな顔してると思う。でも泣いちゃだめ、我慢。翔ちゃんは意味が分からないって顔をしてたからPSPの画面を見せた。

「この人と、恋愛するゲーム、してた」
「…おぉ…」
「翔ちゃんに似てる人だなって思って、翔ちゃんがいないとき寂しくないかなって思って、」
「…」
「翔ちゃんがあんまり、言ってくれないこと、とか、言ってくれて、翔ちゃんに言われてる気分になって、幸せになってた」
「…名前」

嗚咽が混ざってきたけど絶対泣かない。翔ちゃんに引かれてもいいから、このまま別れるなんて言ってほしくないよ。涙でゆらゆらする視界の中で翔ちゃんが私に近づいてきたのを感じた。次の瞬間、私は翔ちゃんの腕の中にいて。

「わりぃ。…別れるなんて、嘘」
「う…ぐす、っ」
「なぁ、そいつ、どんなこと言うんだ?」
「…え、」
「俺も言えるように、なる」

翔ちゃんは私を苦しいくらいに抱きしめて、切なそうな声を出した。ああもう、私、この人のことたまらなく好きだ。

「ううん、今のままでいいの。好きって言ってもらえる機会が少なくて、勝手に不安になっただけ。翔ちゃんはいつもこうやってぎゅーってして、行動で気持ちを伝えてくれてるはずなのに」
「名前…」
「もう、大丈夫だから」

翔ちゃんにそんな悲しい思いさせるくらいなら恋愛ゲームなんかやらないよ。そんな意味合い。翔ちゃんは私のほっぺを両手で包むと、優しくキスをしてきた。触れるだけの優しいキス。それから、翔ちゃんは私をじっと見つめる。

「す、すき、だぜ…?」

声が上擦ってる。翔ちゃんの顔は真っ赤だった。私も釣られて顔が熱くなってくる。

「いつもはあんまり言えねーけどさ…ちゃんと、好き、だから、あんま不安になんなよ…」

翔ちゃんは好きっていう単語でいちいち赤くなる。すごく可愛い。それは確かに恋愛ゲームみたいに甘い言葉じゃないし、好きって言葉だけで照れるキャラなんかゲーム内にはいないけど、それでも不器用なそれはゲーム内では味わえないときめきをくれた。

「翔ちゃん…、やっぱり翔ちゃんしか、だめだ」

気づいたら堪えきれなくて涙が零れてた。翔ちゃんはその涙を拭ってくれて、私の頭にごつんって頭突きをする。

「当たり前だろ。俺様よりいい男なんかいねーんだから」

翔ちゃんはもう1回キスをしてきて、それから恥ずかしそうにはにかんだ。




END

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翔ちゃんが現実にいたらきっとこんなことをしているはずです。この後翔ちゃんが恋愛ゲームをプレイして「こ、こんな恥ずかしいこと言ってんのか…っ」とか赤面してたらおいしいですね。名前様、お付き合いありがとうございました。

20121008
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