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朝6時半。いつもはこの時間になると高橋さんの方から名前ちゃんの部屋に来ますから、一緒に朝ごはんを食べます。しかし今日はその高橋さんが来ません。名前ちゃんは疑問に思って高橋さんの部屋を訪れました。
ピンポーン。
インターホンを鳴らしても高橋さんは出てきません。名前ちゃんはますます疑問に思い、電話をかけることにしました。しばらく鳴らし続けると、30秒くらいして高橋さんはやっと出ました。
「…はい」
「浩汰?声、どうしたの?」
さすが名前ちゃん、高橋さんの異変は一発で分かります。高橋さんはいつもより鼻声なのです。
「何でもないよ…ごめんね…」
「何でもないなら何で今日ご飯食べに来ないの?」
「ん…今日はいいや」
高橋さんの息は少し乱れていて声も苦しそうです。名前ちゃんは確信しました。
「…浩汰、風邪でしょ」
「え」
「何度あるの」
高橋さんは黙り込んでしまいました。正直に話すかどうか悩んでいるようです。しばらく沈黙が続きましたが、高橋さん観念したのでしょうか、口を開きます。
「さんじゅう、はち」
「8、ぴったり?」
「は、8.9…です…」
「それ39度っていうのよばか」
名前ちゃんは頭が痛いとでもいうように額に手を当てます。
「分かった、今日は私学校休むから。部屋の鍵開けといて」
「っ…だめ、無理だよ…!」
「はあ?」
「名前が学校休むのも、だめだし、俺の部屋なんか、来ちゃだめ…っ」
「…」
高橋さんは大慌て。名前ちゃんは不審に思いました。そういえば、浩汰の部屋ってまだ入ったことないかも。名前ちゃんはにやりと嫌な笑顔を浮かべます。
「でも看病しなきゃ。ね、浩汰、今日は私が1日中浩汰の傍にいてあげるからね?」
「1日中…?」
名前ちゃんの悪魔の囁きに耳を貸してしまった高橋さんは熱で頭も回らずに返事をしてしまいました。
「分かったぁ…開けとく…」
部屋に入ると名前ちゃんはびっくりしました。高橋さんの部屋はとっても片付いています、が、テレビが何台も置いてありました。何でこんなに。名前ちゃんは不思議に思います。
「浩汰の部屋、思ってたのと違う」
「そう…?どんなの想像してたの?」
「内緒」
自意識過剰だったのでしょうか、名前ちゃんは自分の写真がべたべた貼ってある部屋を想像していました。しかし今はそんなことどうでもいいです。名前ちゃんは高橋さんをベッドに寝かせました。
「薬は?」
「一応市販のを飲んだ…」
「吐き気は?食欲ある?」
「吐き気はないけど食欲もないかも…」
「じゃあお粥作るか…待っててね」
高橋さんはマスクを3重くらいにして完全に名前ちゃんにうつさないように対策をとっています。冷えピタを額に貼って息苦しそうに布団から顔を出す高橋さんに名前ちゃんはにこりと笑顔を見せると、そのまま高橋さんの部屋のキッチンを借りることにしました。ぱかっ。冷蔵庫を開けるとあんまり見たくなかったものが目に入ります。
「…何で冷蔵庫にローション入ってんの」
パッケージには名前ちゃんの写真が貼ってあります。こんなところに貼られるとは予想外だと、名前ちゃんは何も言えなくなりました。もちろん盗撮です。
高橋さん家の冷蔵庫にはまともな食材が豆腐とこんにゃくしか入っていません。
「…浩汰、悪いけど私の部屋の方で作ってくる」
病人を責めても仕方ないと思い、名前ちゃんは高橋さんに一言かけて部屋を出ていきました。
エプロン姿で登場した名前ちゃんにお粥をあーんされ、高橋さんはますます熱が上がりました。冷えピタを貼り変えて寝ることにします。暇になった名前ちゃんはテレビを見ることにしました。一部屋に絶対2台以上あるテレビに疑問を感じてはいましたが、きっとテレビが好きなんだろうななんて思ってあまり気にしてはいませんでした。が。名前ちゃんがリモコンでテレビを付けると理由が分かりました。なんとそこには名前ちゃんの部屋が映し出されていたのです。名前ちゃんの全部屋をいろんな角度から撮られているのを知り、名前ちゃんは何となくにやりとしてしまいました。高橋さんは本当に気持ち悪いのですが、その気持ち悪さを期待してしまっているのも事実です。そんなとき、急にインターホンが鳴ります。
ピンポーン。
「あれ、誰だろう?」
「ん…、名前、出なくていいよ…」
高橋さんは布団の中から苦しそうな声で言います。
ピンポーン。
「いや、そういうわけにはいかないでしょ。私出てくるよ」
「たぶん、友達だから…いい…」
「それならなおさらでしょ」
「いいんだって…っ」
玄関へ向かおうとしている名前ちゃんを引き止めるために、高橋さんはベッドから出て名前ちゃんの元へ走ります。名前ちゃんはそれにびっくりしました。39度の熱で走るなんてとんでもありません。すぐに名前ちゃんは高橋さんの鳩尾を殴って止めました。
「ぐっ…!」
「あんた何考えてるの!」
高橋さんはふらふらしながら名前ちゃんを抱きしめます。
「だ、だって…、名前、出なくて、いいのに」
「何をそんなに引き止めたいのか分かんないけどあんたは寝てなさい」
「で、でも、」
「浩汰」
名前ちゃんは高橋さんの胸倉を掴んで自分の方へ引っ張ります。バランスを崩してしゃがむように高橋さんが小さくなると、名前ちゃんは高橋さんにマスクの上からちゅっとキスをしました。
「大人しく寝てなさい」
名前ちゃんが再度そう言うと高橋さんは大人しくベッドへ戻りました。
それから名前ちゃんは玄関に行き、ドアを開けます。そこには3人の男の子が立っていました。
「どちら様ですか?」
名前ちゃんがこてんと首を傾げると、男の子達はおおっと歓声を上げます。
「初めまして、もしかしなくても名前ちゃんですよね?」
「写真で見るより可愛いかも」
「2人は一緒に住んでるんですか?名前ちゃんのこといつも盗撮してるって言うからてっきり別で住んでるのかと思ってました」
面識がないのに名前ちゃんはいろいろ言われてしまって困りました。
「あ、あのぉ…、とりあえず、上がります?」
愛想笑いを浮かべる名前ちゃんへ素直に従い、男の子達は高橋さんの部屋へ上がりました。ベッドでは高橋さんが上半身を起こし、こちらを睨んでいます。
「…何で来たの」
「こら浩汰、せっかく来てくれたお友達に失礼でしょ」
わらわら集まった友達に囲まれ、高橋さんは大層ご立腹です。名前ちゃんを引き寄せるとベッドの中にいながらも皆に見せつけるように名前ちゃんの腰を抱きました。
「あんまり名前のこと見ないで」
「高橋はやきもちやきだな〜」
「ははは、名前ちゃん愛されてる」
「ちょっと、名前ちゃんとか気安く呼ばないで。てゆーか、ほんとに帰って」
高橋さんはムムムと口を尖らせます。名前ちゃんは何がなんだかわからず混乱するばかり。浩汰、この人達と仲良くないのかな?友達はひたすら高橋さんのことを笑っています。
「こいつ本当に名前ちゃんのこと好きなんですね、こんなに愛されてて疲れません?」
「え、べつに、疲れはしませんけど…」
名前ちゃんは困ってしまいます。どう対応すればいいのか分からないのです。ちろちろ視線を泳がせていたら、突然友達の1人が高橋さんのマスクを指しました。
「あ、これ、口紅のあと」
「「…」」
名前ちゃんと高橋さんは一気にぶわりと顔を赤くしました。正式には口紅ではありませんが、名前ちゃんはリップを塗っていたのでそれが付いたのでしょう。高橋さんは赤い顔のまま友達を睨みます。
「っ、もう、帰ってよ!」
「そうだなぁ、お前なかなか元気そうだし、名前ちゃんが看病しててくれるなら安心か」
「それに2人で楽しんでたみたいだしな、邪魔者は退散退散〜」
友達はぎゃはははっと笑いながら部屋を出ていこうとします。ですが、その中の1人が。
「ごめん、すぐ帰るからちょっとトイレ寄らせて」
高橋さんに頼みます。高橋さんはギリリとその友達を睨み、歯ぎしりをします。
「いいけど、壁見たら許さないから。いい?絶対壁見ないで床見てて。もし見たら許さないから」
理由は分かりませんが高橋さんは何度もそう言って友達を睨むのです。友達は分かった分かったと言いながらトイレへ行きました。
「何で壁見ちゃいけないの?」
名前ちゃんが訊くと高橋さんは笑顔でごまかします。きっとすごい秘密が隠されているに違いありません。名前ちゃんは気になってしまいました。
そこへ、友達が帰ってきました。友達は微かに笑いを堪えているような顔をしています。
「…見たでしょ」
じろり。高橋さんの目つきは鋭いです。
「見てないってば、こえーよお前」
「ぴったり90枚あるから、1枚でもなくなってたら許さない」
「盗らねーよこえーよ」
「…ならいい、さっさと帰って」
高橋さんは最後まで不機嫌でした。友達は、じゃあなーと笑いながら帰っていきます。来てからそんなに経っていないのに、風のように来て風のように去っていきました。騒がしい人達です。
「やっと帰ったぁ…」
友達が出ていくと、高橋さんはふわっと笑って名前ちゃんに抱き着きました。わけが分からない名前ちゃんはどきどきしながらそれを受け止めます。え、なに、どうしたの。名前ちゃんは顔を赤くさせました。
「ほんとは名前のこと誰にも見せたくなかったのに」
「え、浩汰…?」
「名前、おれ以外好きになっちゃだめだよ?」
きゅうん。名前ちゃんはときめきました。高橋さんはむくれながら言いますが、その姿が可愛くて仕方ありません。浩汰、やきもちやきだ、可愛い。名前ちゃんは高橋さんの頭を撫でます。
「そんなの決まってんでしょ、ばか。あんたも他の女の子見たら殺すから」
「こ、殺すの!?」
「当然。いいから病人は寝なさい」
「はぁい…」
名前ちゃんは高橋さんを無理矢理寝かしつけてその頭をなでなでします。愛しさを上手く言葉にはできませんが、こうやって行動で気持ちを示すのです。
「浩汰、おやすみ」
「うん、おやすみ」
名前ちゃんは高橋さんが寝るまで頭をなでなでしていました。
「そういえば」
高橋さんが寝た後、名前ちゃんはこっそりトイレへ向かいます。あんなに高橋さんが見られたくなかったものって何なのか気になったのです。90枚って何が?多くない?名前ちゃんはトイレのドアを開けて、後悔しました。なんとそこには名前ちゃんの盗撮写真がべったり貼ってあったのです。
「…きもちわる」
こんなのが90枚もあるのかと思うとぞっとしましたが、それにも慣れてしまった名前ちゃんは高橋さんに汚染されているのでしょうね。
END
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アンケより高橋さんが妬くお話です。高橋さんはひたすら不機嫌になるし相手にはこわいけど主人公には怒らないタイプだと思います。ちなみに主人公が自分の部屋に帰ったあと、高橋さんはキスマークのついたマスクを裏返して間接キスしながら寝ました。名前様、お付き合いありがとうございました。
20121128
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