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両手に大きな箱を持ち、トタトタと廊下を走ってくる。
「銀ちゃん、ハピバ!」
「あ〜…うん、そうだね」
勢い良く部屋へ入っていくと、彼はだらし無くソファに寝そべっていて、棒読みな返事。
「何寝てんの!もう昼でしょっ」
「勘弁してくれよ、こちとら二日酔いと戦ってんだからよォ」
「も〜…銀ちゃんは」
彼女は呆れて、その箱をドサリとテーブルに置いた後、彼のもとへしゃがんだ。
「大丈夫?」
「全然だいじょばないよ。いやーでも甘いものを食べたら治るかもしんない、うん」
「仕方ないなぁ…、ケーキ、作ってきたけど」
「え、まじで?」
ガバッと起き上がる。しかし次の瞬間、激しい頭痛に襲われて頭を抱えてのた打ち回った。
「ッぎゃあああ痛ってぇ!」
「いや、ばかでしょ。あんたばかでしょ」
ツッコミが新八に似てきてしまったのも、もはや仕方がないことである。
(( 幸せな日 ))
箱を開けると、色んな種類のケーキが見える。
「すっげ…これ、全部お前が作ったの?」
「まぁ、私にはこれくらいしか取り柄ないしさ…」
「んなことねーけど」
彼は嬉しそうに目を輝かせている。
「こんなに作るの、大変だっただろ」
「でも、銀ちゃんの誕生日だからさ…」
はにかむ彼女に、彼は微かにニヤリとする。
「俺のためにね…じゃあ俺のために、名前が食わせてくんね?」
「な…っ、自分で食べられるでしょ!」
「俺今日誕生日〜」
「そう言えばやると思って…!」
彼女は深くため息をついた。
「あーん」
「……」
生クリームがたっぷり乗ったところをフォークに乗せ、口を開けて待っている彼に目を向ける。それを口の中へ放ってやれば、幸せそうに笑う彼。
「うめー…まじで癒されるわ」
「ほんと?なら良いけど」
口の周りにクリームをつけている彼は、いつもより心なしか目が生き生きしている。ペロリと唇を舐め生クリームをとり、再び口を開ける。
「あーん」
「…だから、自分で食べてよね」
呆れ顔を見せつつも、もう一口。それから、もう一口。ついには全て平らげてしまう。
「そんなに食べて、血糖値大丈夫?」
「お前急にリアルな話止めて!」
クスッと笑う彼女の頭をポンポンと撫でた。
「いいんだよ、そんなの。俺今すっげー嬉しいから」
「ほんと?」
「あァ」
それから肩を抱き寄せられ、腕の中に包まれる。
「こんな幸せな日、初めてなんだよ」
「銀ちゃん…」
ぎゅうう、と抱きしめられたまま、彼を見上げた。
「ただケーキ作ってきただけじゃんか…」
「好きな奴に祝ってもらえるってのが嬉しいんだよ」
いつもより低くて囁くような声。本当に喜んでくれたのが伝わってくる。
「じゃあ来年も頑張っちゃお」
「コラコラ、これ以上銀さんを感動させんじゃねーよ」
刹那、ちゅ、と額にキスを落とされ、不意打ちのそれにカァッと顔を赤くさせた。
「何その反応…抱いて良いってこと?」
「えっ、ち、ちが…っ!銀ちゃん、二日酔いなんでしょ!」
「うん、だから明日にでも」
「………」
それからした口づけは、ケーキのせいでとびきり甘いキスになった。
END
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明日かよ、と心の中でつっこんだら負けです。新八のようなツッコミになってしまいますよ(笑)
名前様、お付き合いありがとうございました。
20111010
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