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※グロ注意




彼の元気がないのは、きっとケイのことで悩んでいるんだろうな、と思っていた。

(いや、実際そうだったんだけど…)

彼の部屋に向かう途中、昨日言われていた言葉を思い出していた。



『これ以上ケイに無理させたら…ケイは、』
『ケイの血を飲んでから身体がおかしいんだ』
『血が飲みたい…もう止められねぇ』
『ケイを殺す前に俺が…』



どれも自分を責めているような言葉で、聞いていた彼女の方が辛くなるような内容だった。

(アルが自殺なんてしないよね…でももし、)



そ れ を し て し ま っ た ら ?



ゾクッと寒気がした。

(アルが死ぬくらいなら、悩むくらいなら、)

彼女はキッと前を向いて、足早に歩いた。




(( 抑えられない ))




彼の部屋に行くと、そこには誰もいなかった。

「あれ?」

(いつもならいる時間なのに…)

ハッ、と顔を上げると、彼女は顔を青くさせた。

(まさかもう…、)

いやそれはない、と自分に言い聞かせる。ドクンと身体が熱くなり、汗が滲み出た。刹那、バタンとドアの音がして、顔色の悪い彼が入ってきたのが分かった。

(良かった…)

「おかえり、アル」
「…名前?」

彼の服には、所々血が飛び散っている。きっと理性を抑え切れずに誰かを襲ったのだろう。

「大丈夫?」
「…俺に近寄んねぇ方が良い」
「どうして?」
「…お前を、殺したくない…」

彼女はその一言で、先程彼が何をしてしまったのかを悟った。

「大丈夫。私、アルになら殺されても平気だよ?」
「何言って…っ、」

彼はギリッと奥歯を噛んで、それ以上は言わなかった。

「血が飲みたい。感情が抑えられない。…お前を殺しちまいそうで、怖ぇんだよ…」
「アル…」

苦しそうにする彼を見て、彼女は思わず彼に抱き着いた。

「…良いよ、飲んでも」
「ばか、離れろ…っ」

彼の言葉に比例して、彼女の腕の力も強くなる。彼はだんだん息が乱れていく。

「っ、まじで、やばい…っ!早く離れ、…ッ」

ビクッと反応し、彼女の背中に腕を回した。

「…アル?」
「やべぇ…お前、」

良い匂いすぎ…、と耳元で囁かれる。もう彼は血が飲みたくて飲みたくて仕方ないはずだ。それなのに飲まないのは、彼女のことを殺したくないからだろう。
彼女は静かに彼を見上げた。

「飲んで良いって」
「止まんなくなるから…」
「大丈夫」
「…っ、」

それでもなかなか吸わない彼に、彼女は唇を噛んだ。

「アルの苦しそうなとこ、見たくないよ…だから飲んで?」

お願い、と呟くと、彼は辛そうな顔をして答えない。見兼ねた彼女が自分で人差し指を、ガリッと噛む。その瞬間、鉄の香りと共に彼女の指から血が染み出た。刹那、彼の目つきが変わるのを感じた。それから彼は彼女の手首を掴み、人差し指を口に含んだ。

「んっ、アル…」

人間とは違う、少しザラザラした舌。熱くなぞられ、ゾクゾクと背中に痺れが走った。彼は伏せ目がちに彼女を見ると、彼女はトロンとした目つきで彼を見上げるもんだから、彼の理性も一気に飛んだ。彼女の肩にかかる服をグイッとずらし、その首筋をそっと舐めあげる。

「……っ」

熱い吐息がかかりピクリと身体を跳ねさせる彼女を見てゴクリと唾を飲み、彼は首筋に噛み付いた。

「やっ、痛…ッ」

痛みに驚いた彼女は思わず後ずさるが、彼にしっかり腕を回されているので逃げれない。そのまま血を吸われ、身体の血がそこへ集まって熱くなる。それと同時に、身体から力が抜けていくのを感じた。

「あっ、…アル…、や、ぁ…っ!」

痛さのあまり、涙をボロボロ零すが、彼には届いていない。もはやそれは『アル』ではなく、1人の『吸血鬼』だ。

「アル…っ、ぁ…、」

微かに名前を呼んで、彼女は目を閉じ、ぐったりした。全身から力が抜けきり、息が絶えている。…しかしアルは気づかずに最後の一滴まで飲み干した。

血を吸い終えたアルは、ため息と共に口を拭う。そして彼女へ視線を移し―――…
ハッと息を飲んだ。

「名前!!」

もう彼女が返事をすることはない。

(俺が殺ったのか…?)

彼は膝をおって彼女を抱き抱え、空を仰いだ。

「ぅあぁあぁぁああ゙!!!!」

突然叫んだかと思えば、今度は黙って涙を流した。それから彼女にそっと口づけをし、彼女を置いて部屋を出ていった。






それから彼は、未だ誰にも見つかっていない。




END

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アルのためになら血をあげてもいいです(照)
名前様、お付き合いありがとうございました。

20111001
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