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(( 幼なじみ ))




にこにこと幸せそうな笑顔を見せる彼女にじわりと変な汗をかく。
「…今、何つった?」
「だから、私彼氏できた」
てへ、とでも言うかのように彼女は首を傾げる。彼は持っていた携帯を置くと、嫌な予感をさせるような笑顔を浮かべる彼女に向き合った。
「お前に彼氏ができんのなんてしょっちゅうだろ」
「えー、そうだっけ」
「そうだよ。お前、それで何人目だと思ってんだ」
彼女の笑顔を見れば“今回はいつもと違う”なんてことは一発で分かる。敢えて聞かないでいたというのに、彼女は変態チックに笑いながら口を開いた。
「ふふ、今回結構本気なんだよね」
「…まじで」
「大まじ!超かっこいいんだよね〜」
予感的中。ため息をついてやりたいがぐっと我慢し、彼女の惚気にぴくりと片眉を動かした。
「へー…。で、どっちから?」
「それが向こうからでさぁ」
「へー、良かったじゃん」
軽い返事しかしていないのに、彼女はそれでも満足そうでペラペラと自慢話を始める。それを完全に聞き流しながら再び携帯を手に取ると、ハートでいっぱいのメールが目に入った。今までメールしていた相手は勿論恋人。付き合い出して未だそんなに経っていないが、そろそろ飽きてきた女だ。
「バスケしてるときとかかっこよくて!次の試合、応援行くことになっちゃったー!」
「…へー」
かちかちと躊躇いもなくメールをうつ。別れよう、とたった4文字をうちこみ、直ぐに携帯を置いた。こうして毎回ゲーム感覚の付き合いが続いている。恋人なんて所詮暇潰しの道具。それは彼女も同じだと思っていた。それなのに、今回初めて本気になるなんて。
「俺も早く相手見付けなきゃな」
「好きな子できると世界が変わるよー」
「…そうかよ」
嬉しそうに話す彼女に、彼は目を細めた。

***

翌日。
彼女は彼の隣でにこにこと笑っている。何か言いたげなのに何も言ってこない。きっと彼氏関連のことだということは安易に予想がつく。
「何だよ」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれた!」
にやにやと実に幸せそうに笑う。憎たらしいがどうせ長続きしないだろうと心の隅でひがみっぽく呟き、机の上に座って偉そうに足を組んでいる彼女を見上げた。
「今日から中村くんと帰るんだよね、だからあんたとは帰れないや」
「は、」
にっこりととんでもないことを言ってくる。小学校の頃から高校1年の今までずっと一緒に帰ってきたし、お互い恋人ができても関係なく2人で帰っていたというのに、突然。それほど今回は“中村くん”に夢中らしい。
「…清々するぜ」
棘のある言い方で言うと、クラスに残っていた女の子全然がほぼ同時に声を上げた。
「「えー!!?」」
「何よ」
彼女がそちらをキッと睨むが女の子達は信じられないと彼女に詰め寄る。
「あんたね、相山くんだよ?相山勇介くんだよ?幼なじみってだけで一緒に居られるなんてどんだけ羨ましかったか…」
「知らないよ」
「なのに自分から距離をとるなんて!もったないよ、あの相山勇介くんなのにっ」
彼はアイドルでもなければモデルでもない。それなのに学校の女の子どころか地元の子は皆知っている“イケメン”というやつで有名だった。小さい頃からモテてはいたが、高校に入った今、それは尚更だ。彼は気怠そうに立ち上がるとポケットから携帯を出して電話をかけはじめる。
「お前がそう言うんなら俺も彼女と帰るわ。とりあえず今日からは…っと、もしもし?」
何かを言いかけたが途中で電話が繋がる。会話中に何度か恋人の名前が出てきたが、明らかに昨日までとは違う相手。彼女は帰る支度をしながら電話が切れるのを待った。
(それにしても…、)
チラリと彼を見ると無表情。きっとまた適当な女の子と付き合っているのだろうと想像がつく。笑いもしないで淡々と用件だけ言うと2分もしないで電話を切った。
「…あんた、また彼女変えたの?」
「ん、飽きたし」
「今の彼女もすぐに飽きるくせに…」
「毎度のことだろ」
携帯をポケットにしまうと彼も帰る支度をする。何と無く気まずくなって、それからは口を開けなかった。

***

初めて一緒に帰る彼は少し緊張していた。いつもはバスケ部でクールに練習をしている彼も少し頬を赤く染め、話に躓きながらもゆっくりと歩みを進めていた。
「ねぇ、名字、今度の日曜日、暇?」
「え、何で?」
「付き合い始めて初の日曜日だし…デート、とか」
「え!行く!絶対行きたい!」
「そ?…良かった」
フッ、と笑みをこぼす彼に思わずドキリと肩を上げる。
「…俺、慣れてないんだよね、こーゆーの」
「えっ?」
「女の子と出掛けたこととかなくて」
「中村くんが?すごくモテるのに」
ふるふると首を横に振られて期待で胸が高鳴った。もしかして彼の初めての彼女ではないのか、と。
「俺、今までバスケしか見えてなかったから」
「中村くん…」
恥ずかしそうに言ってから、かっこわるいけど、と付け足し頭を掻く彼にきゅううと胸が熱くなった。今までかっこいいと思っていた彼に初めて感じる“可愛い”の部分。頬が染まった彼に母性本能が擽られた。今まで遊んできた彼女だからこそそれがまた新鮮に感じて。
「私、楽しみにしてるね?」
にこっと笑いかけたら照れ臭そうに彼もはにかんだ。

***

「―――ってことなんだよ!」
「リア充め!お前なんか出てけ!」
中村は帰り際に照れながら小さく手を振ってくれて、それがとても可愛くてめろめろになっていたところに勇介が帰ってきたので、惚気話をぶちまけにそのまま家にお邪魔したところだ。日曜日のデートのことや赤面した中村がとんでもなく可愛いということまで話し、思い出しては口元を緩める彼女に、彼は苛々とクッションを叩いた。
「ほんとそれ。リア充してるなぁ、私」
「あーあそうですか、そいつは良かったですねっと」
今までとはガラリと変わった彼女に思わず口を尖らす。完全に“恋愛している女”の顔だからだ。幸せそうにうっとりとしていて腹の底からくる苛立ちを必死に抑えることしかできない。
「…何で中村がいいんだよ…」
ボソッと呟いてみれば彼女はにこりと笑う。
「理由とか分かんないや。中村くんが大好きだから、としか答えようがない」
「…そうかよ」
幸せそうな彼女に吐き捨てるように答え、クッションに顔を埋めた。彼女は悪くないのに完全に八つ当たりだ。
自分の中での苛立ちを整理できないまま、彼はただ我慢して幸せそうな彼女を見ていることしかできなかった。



To be continue...
20111112
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