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最近よく、あの女に会う。
(( はじまり ))
「トシ、今日も見回り頼んで良いか?」
「何でだよ。今日は総悟の担当だろ」
「あいつ、昨日厠に行ったっきり帰ってこねェんだ。きっと腹をこわしたんだろうな」
「んなワケあるかァァァッ!!!」
どんだけ長いんだよ、とツッコんでから彼はため息を漏らした。
「…行ってくる」
「悪ぃな、頼んだぞ」
近藤に見送られ、頭を掻きながら部屋を出た。と、庭に出ると山崎がいる。勿論お得意のミントンを振り回して。
「山崎ィィッ!てめっ、何やってんだァァァ!!!」
「きゃっ、副長!」
(きゃって何だよ…)
ギロリと山崎を睨みつけると山崎はすぐにミントンを自分の背中に隠した。
「ばか崎。隠したって分かってんだよ。それよりテメェ、総悟はどこだ」
「あ、沖田隊長なら厠ですよ。昨日から」
「だから、んなワケあるかァァァッ!!!!!」
山崎に飛び蹴りをくらわせ、彼は再度ため息をつきながら山崎を見つめた。
「おい、テメェ暇だろ?」
「え?俺仕事が…」
「ミントンやるくらい暇なんだよな?」
「……はい」
よし、と彼が呟くと、山崎は恐る恐る顔を上げた。
「今から見回りだ。お前も付き合え」
「副長ー疲れました」
「俺も疲れた、お前の存在に」
「えっ、副長ー!」
「だっ…触んな!」
グイッと袖を引っ張ってくる山崎の腕を振り払うと、彼はふと気がついたように顔を上げる。
(この辺、だな…)
キョロ、と辺りを見回すが、まだ彼女の姿はない。…そう、ここ数日、よく会ってしまう彼女だ。
「副長ー最近副長、見回り多いですよね?」
「あ?知らねーよ」
「そうですか?あの人が目的じゃなかったんですね」
「あの人って誰だよ」
「え?あの人はあのひ…あ、あの人です!」
そう言って山崎が指差した先には、確かに彼女がいる。
「ばっか、別に違ェよ!」
「えーそうなんですか」
山崎がつまらなそうに言うもんだから、彼は少し焦った。
(べ、別に関係ねェし…)
その2人のやりとりを見て彼女は遂に気付いてしまう。
「あ、十四郎」
「……名前」
彼が露骨に嫌そうな顔をし、彼女は笑顔のまま彼の胸倉を掴んだ。
「何なのその顔?ん?」
「ちょ、離せよ」
「あんた、毎日毎日私に突っ掛かってくんのやめてくんない?」
「テメェが突っ掛かってくんだろーが!」
そんなやり取りをしていると、山崎が不思議そうに2人を交互に見る。
「お2人は知り合いだったんですか?」
「…ああ」
「幼なじみだよ」
彼が嫌そうに頷いたのを見て彼女は彼の鳩尾を殴った。
「ああ、そうなんですか!副長ってば、最近あなたに会いたいらしくていつも見回り希望するんです」
「ばっ…何言ってんだァァァッ!!!!違ぇよ!」
あらそうなの?と彼女は笑う。彼は気まずそうに視線を落とすと、山崎を軽く殴った。
「十四郎って昔からツンデレなんだよねー」
「そうなんですか」
「おい違ぇよ。俺はいつからツンデレキャラだ」
反論した彼をクスリと笑って、彼女はふと空を見上げる。
「ああそうだった。今日私行くとこあるからまたね」
軽く手を振ってから背を向けて歩き出す彼女を見詰め、彼は姿が見えなくなるまで見送った。
(やっぱり副長、好きなんじゃ…)
端から見てもそう思うくらい彼はずっと見送っていたのだ。
「…副長?」
「……ああ、行くぞ」
声を掛けられ、やっと彼は山崎に視線を戻す。
「副長、本当にあの人が好きなんですね」
「あ?だから違ぇって」
「だって、ずっと見てたじゃないですか」
「見てねぇよ!」
「まったくツンデレなんですからー。まぁ副長が本当に気付いてないだけなのかもしれないですけどね」
「………」
じゃあ、と彼は心の中で呟いた。
(あいつを見たら、総悟がサボったってのも許せちまうのは、名前のせいだって言うのか…?)
彼がこの恋心に気づくのは、あともう少ししてからの話だ。
END
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実は沖田さんは彼女と会う約束をしていてサボり、彼女が今から行くところは沖田さんのところ、それから土方さんがそれを知ってしまって三角関係に…なんて裏設定まで考えておいといて土方さんが可哀相になってやめてしまいました(笑)
名前様、お付き合いありがとうございました。
20111103
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