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怖いテレビ番組を観た夜はそれが実際あったらどうしようとか色々考えてしまって寝れないとよく言うが、彼女は全くそういったものがない。ただ、今回のものは別だ。お化けとかの類いではなく、どちらかと言うとグロテスクな方に含まれる内容のテレビ番組だったからだ。いつもお化けのものを見るとヒーヒー言いながら、別に怖くなんかないんだからね、と意地を張る彼は、今日はけろりとしている。昔のそれで人の血には免疫がついているのだろう。ただ彼女は違う。お化けなんか信じていないが、そういったものは現実味があって怖いのだ。しかしいつも彼を馬鹿にしているため、今日は自分が怖いだなんて絶対に言えない。
(( 怖い夜に ))
「じゃあそろそろ寝るか」
「えっ、うん…」
夜寝るとなると、別々に寝なければならない。神楽はやたらと早寝なのでもう既に寝ているし、ここで彼とも離れたらどうすればいいか分からなくなる。
「ぎ、銀ちゃん…」
「ん?」
「もう、寝ちゃうの…?」
これから寝室に向かおうとしていたであろう彼を引き止めるように、彼女は彼の服の袖をきゅうと引っ張った。
「…え、なあに名前ちゃん、もしかして誘ってるわけ?」
「なっ…はあ?!」
行ってほしくない一心で 確かに猫撫で声になってしまったかもしれないが、そんな気はさらさらない。勿論別に嫌なわけでもないが。
「意味分かんないし…」
「だって、まだ寝ちゃだめ、って言いたかったんだろ?」
(都合良い解釈しないでよ…!)
わざと嫌そうな顔をしてみたが、全く効果はなかった。はあ、とため息をついて見せる。
「別にそうじゃなくて…寒いから一緒に寝てあげても良いよってこと」
「で、温め合う、と?」
「だからぁ…っ」
1回スイッチが入ると、なかなか平常な会話ができなくなるのが、この変態チックな彼の短所。銀時はにやにやと顎を撫でた。
「まあ、ヤるにしてもヤらないにしても、お前からの誘いなんて珍しいからな。有り難く誘いに甘えるとしよう」
「いやだから違うって言ってるじゃん、聞いてる?!」
もう反論するのも面倒だ。未だ楽しそうに笑う彼から目を逸らし、彼女は彼の寝室へ勝手に入っていった。とは言え、彼女から誘うなど奇跡に等しいことだ。薬を盛らないとすれば、他に誘わせる方法などないと言っても良い程に。彼もそれを分かっているのか、寝室に入ると押し入れをあさりはじめた。
「俺ァこっち側で寝るから、俺の布団はお前が使え」
押し入れから出したのは、少し薄めの毛布1枚。彼はそれを持って部屋の隅っこへと移動した。
「ち、ちょっと待って、それはやだ!」
(せっかく一緒の部屋に寝るのに、別々だったら怖さ変わらないし…)
彼女が言うと、彼は少し悲しげな顔。
「いや…いやいやお前、加齢臭なんてしないから。いや、ほんとだって、多分」
明らか動揺しながら頭を掻く姿に、思わず笑いそうになった。
「違うよ、銀ちゃんの布団が臭いとかじゃなくて、」
「臭いとか言うな、臭いわけありません!」
「いやだから違うんだって…ああもう!」
これでは話が成り立たない。彼女は苛々と彼の許へ行くと、彼の手首を強引に引っ張った。
「だから、一緒に寝てほしいって言ってんの!」
「…え?」
ぽかんと口が開く。予想外の言葉に動揺が隠しきれない。プライドの高い彼女がこうしてお願いしてくる姿は多少の羞恥が混ざるらしく、目を逸らしながら弱い声での頼みだった。ドクン、と心臓が跳ねた。彼女が頼んでくるからには、何らかの事情があって仕方なくだと言うことが分かるからこそ困り者。
(生殺しかよー…)
彼はフッと笑って見せた。彼女は彼の手を引き、布団へと導く。こんな大胆な行動、今までにしたことがあるだろうか。
「そろそろ寝るかぁ?」
「うん…」
寝ると言ってしまえば本当に自分1人先に寝てしまうのだろうと分かっていたので、彼女は弱々しく頷いた。彼に先に寝られてしまったら元も子もないからだ。彼はまた少し目を細めて、彼女をぐいっと抱き寄せた。不安そうに見えた彼女を落ち着かせるように、優しく髪を撫でて。
「冗談だよ。名前が寝るまでこうしててやるから、早く寝ろ」
「銀ちゃん…」
彼が何を読みとったのかは分からないが、自分の気持ちが少しでも伝わったことが嬉しくて、彼女は笑顔を浮かべながら彼の胸に顔を埋めた。
「ありがとね。…おやすみなさい…」
「ああ」
それから暫くは、彼女から寝息が聞こえてくるまで頭を撫でてやった。すやすやと眠っている顔が可愛くて、そしてしっかりと彼の服を掴んでしがみつくように寝ている彼女に愛しささえ覚える。
(やっぱりな…)
結局生殺しじゃねーか、と彼は心の中で呟くと、静かに彼女の額にキスを落とした。
END
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生殺し状態のうずうずした銀ちゃんが見たかっただけです(笑)
名前様、お付き合いありがとうございました。
20111016
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