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(この報告書の締め切りまであと3時間…)
日番谷はバサリと書類を机に投げた。この机の上に山積みにされている書類は全て乱菊のものだ。日頃言うことなんか1つも聞かないで仕事をサボッてばかりいるくせに、こういう時ばかり頼ってくる。チラリとあちらへ目をやれば、半泣き状態で筆を持つ乱菊が居る。
(こーゆー時くらい反省しろ…)
日番谷は大きくため息をついた後、ゆっくりと目を閉じた。いつも乱菊がやる手口。寝たふりをして仕事を押し付けるのだ。乱菊は「あー!」と叫ぶと、彼の机をばんばん叩いた。
「ちょっと隊長!寝たふり止めて下さいよ!」
煩ぇ、といつもなら返すが、本当に寝たふりを続ける。
「隊長ぉ…」
泣きそうな声で呟かれると罪悪感でいっぱいになるのだが、ここで1度厳しくしとかなければ8番隊の京楽隊長みたいな人になってしまうと思い、目を開けることはない。京楽隊長のああいうところが良いのだろうが、正直七緒には苦労をかけているだろう。
(隊員の教育も俺の役目だしな)
寝たふりを止める気配も無いことを察したのか、乱菊はチッ、と舌打ちした。
「ああもう、隊長のばか!」
そうしている時間ももったいないとでも言うかのように仕事へ戻る乱菊にホッとしながら、そっと目を開けようとすると。
「シロちゃーん!」
バァン!と大きな音を立ててドアが開かれる。名前を呼ばれ、思わず再び目を閉じてしまった。
「あれ、シロちゃん…?」
その声は恋人の名前の声。思わず寝たふりを続行してしまった自分を責めたい気持ちに駆られながらも、ここで起きたら自分の変なプライドを崩してしまう。ここまでやったなら最後まで、と目をきゅうと閉じた。
「乱菊さーん、シロちゃん寝てるんですかー?」
遠くにいる乱菊へ声を上げる。彼女の声はすぐ近くで聞こえ、もう隣にいることが分かった。
「知らないわよ、隊長なんて」
「え…また怒られたんですか」
「知らないって言ってるでしょ!鬼隊長っ」
不機嫌そうな彼女の声。きっと名前は今苦笑いを浮かべているだろう。
(あいつ、好き放題言いやがって…)
ピシリと血管が浮き出そうなのを必死に抑える。
「なーんだ、折角シロちゃんの為に作ってきたのに…」
名前はトサリと机に何かを置く。それが何かなんて、目を閉じている彼には分かるはずもないのだが。何なのかを想像していると、後ろからすぐ。
ぎゅう。
椅子の背凭れ越しだが、腕が首に絡みついてきて、ドクンと心臓が高鳴った。さらに耳元に彼女の体温を感じて。
「シロちゃん、お誕生日おめでとう」
「…!」
(そうか…)
俺の誕生日は今日だったのか、と今思い出すくらい、彼は今日忙しかったのだ。じわじわと幸せが込み上げてくる。名前はさらに彼に近付いて、ちゅ、と頬にリップ音を響かせると、パッと離れて走って出て行こうとする。
「じゃあ乱菊さん、頑張って下さいね!」
「はいはい」
「じゃあねシロちゃん。あ、寝たふり下手くそ!」
パタンと閉まる音。
刹那、日番谷は目を開けた。
「…何でバレてんだ」
ドキドキとしながら「エスパーかあいつは」と呟くと、未だ怒っている乱菊がため息をつく。
「隊長は寝ている時以外眉間に皺寄ってますから一発で分かりますよ」
「………悪かったな」
人差し指で軽く自分の眉間の皺をなぞると、彼は渋々筆を持つ。目を開けてしまったのだから仕方がない、と乱菊の書類を手伝ってやる。これが終われば名前の作ってくれたものも待っている。きっとこの箱はケーキだろうな、と少しだけ機嫌を良くした日番谷は、また1枚仕上げていった。
「あ、隊長、ケーキですか?」
「あ?」
「気が利くじゃないですかぁ、流石隊長っ」
「あっ、ちょっと待っ…!」
「ん、美味しい〜」
「……松本…!」
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日番谷の誕生日に書いたもの、多分2年前のですね。私の漫画好きはBLEACHから始まりましたのでBLEACH夢は何本か書いたことがあるのです(笑)
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