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「曽良くん、笑って!」
「…はい?」

ピクッと眉を上げる彼はいつもと何も変わらない姿だった。




(( 海の日 ))




10分程経っただろうか。彼はまだにこりともしない。むしろいつもより眉がつりあがっている気さえする。

「大体何故僕が今日笑うという話になっているんですか」
「だって、芭蕉さんが言ってたもん」
「あの人の言うことは10割嘘です、信じないでください」
「10割!?芭蕉さん嘘の塊じゃん!?」

ふん、と顔を背けてしまう彼。いつもムスッとしているというのに、今日くらい。

「ね、曽良くん、何でいつもそうなの?」
「何のことです?」
「だから、何で笑ってくれないの?私といるの、つまんない?」
「何故そうなるんですか…」

年に1度でもいいから笑顔が見たい、なんて贅沢なのだろうか。ため息をつかれて思わず体が強張る。面倒な女だと思われたのか。

「曽良く…、」
「あなたって本当にバカだと思います」
「なっ…、はぁ!?」
「この僕がわざわざつまらない人と一緒にいるはずがないでしょう」

いつもならまたバカにされて終わるだろうに、意外な言葉が紡がれた。当然とでも言うような口調が、これが本音だということを表している。怒ろうと思っていたはずなのに不意をつかれてドキンと胸が鳴った。

「曽良くん…それって…」
「あなたはバカですから、見ていて飽きないということです」
「んなー!?」

(やっぱり曽良くんなんて嫌いっ)

あまりの言いようにじわりと涙が滲む。苛々と彼を睨みつけると、彼はフッと口元を緩ませた。

「冗談ですよ。でも、あなたのそういうところが面白いんです」

苦笑い、というのが正しいだろうか。眉間に皺を寄せて本当に僅かに口角を上げている。それがあまりにも綺麗で、しかも珍しいので感動も混ざって。

「わぁ…曽良くんが笑ってる…」
「笑ってないですよ」

キラキラとした目で彼を見つめていたらピシャリと言い返されて笑顔が消える。綺麗だったのにもったいなくて思わず彼の胸倉を掴んだ。

「ちょ、ちょっと!もっと笑顔見せてよ!」
「元から笑ってなんかいませんよ。離しなさい」
「やだ!曽良くん笑って!ほら笑っ…んんぅ!?」

ぎゅうううとしがみつくように胸倉を掴んでいたら彼が顔を寄せてきて、そのまま唇を奪われた。ちゅう、と唇を吸われて彼女は赤面する。

「…あぁ、あなたがイイ声を聴かせてくれたら嬉しくて笑ってしまうかもしれませんね」
「え、…ちょっと曽良くん」

離れた彼の唇からとんでもない言葉が出てきてじりっと後退したが、今度は彼女が彼の手に捕まる。

「ほら、笑顔が見たいんでしょう?」

にやぁ、と笑う彼の目には加虐の色が浮き出ていた。

(そんな禍禍しい笑顔が見たいんじゃない!)

そんな言葉も言えないまま、彼女は再び唇を奪われた。




END

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海の日ということで素敵な曽良くんの笑顔を描いてくださった夏樹さんに、私からは文章を捧げました。夏樹さんにはかなりお世話になってるのでもう3本くらい捧げたい気持ちでいっぱいです(笑)毎回萌えをありがとうございます、そしてこれからもよろしくお願いします!
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