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「どどどっどうしましょう?!」

可愛いとか言っている場面では無いのだが、実際のところ可愛い、すっごく。
そう名字とルッスーリアは思った。

ただ今の状況を、時間に沿って話していこう。
@名字が任務に行くルッスーリアにお土産を頼んだ
Aそのお土産とは『シュガーキャット』という話題の猫型の焼き菓子、ルッスーリアは任務を終え言われた通りそれを買ってきた
B名前と名字とルッスーリアは、三人でお茶を楽しんでいた
Cお茶菓子としてその『シュガーキャット』を三人とも食べたにも関わらず、名前の身にだけ変化が起きた
Dその変化とは、頭の上に三角の猫の耳が生えたことである
E現在に至る

職業柄、大抵の非常事態には慣れている名字とルッスーリアだったが、流石にこれには驚かずにはいられなかった。
だがしかし、けれども。

「はっ、そうですっ、何とかこれ取らないと…んにゃっ、んにっ、にゃんっ」
『(キュン…)』

名前は猫耳を自力で引っこ抜こうとしているのだが、擽ったいのか自分で触っては悶え、触っては悶えの繰り返しである。
その微笑ましい光景にときめきを覚えずにいられようか、必死な名前を眺めながら、ついついにへら〜っと笑んでしまう。

「と、取れないです…名字さぁん…」
「え、あ、っうーん…これ食べてこうなったとしか考えられないし、食べ物なら時間が経ったら戻る気もするん、だけど…」
「と、っとっ兎に角ボスに見つからないようにしなきゃ…」
「俺が何だ」
『ほぎゃああっ?!』

お約束の展開、一番この場に来てはならない人が、しかも普段は医務室なんて滅多に来ないくせに、何でよりによって今なんだ。
名前はぱっと頭を両手で隠したが、一足遅かった上、あからさまに怪しい格好だ。

「……」

ザンザスの眉間の皺が深くなり、名前はおそるおそる手をどけた。
すると…ぴくぴく、彼女の髪と同じ金色の獣の耳が震えていた。
一瞬、ザンザスの目が僅かに大きくなった、ように見えた。

「…どういうことだ」

それはこの場にいる三人ともに向けられていたが、年上二人は肩を抱き合って顔を真っ青にしている。

「あの…あのお菓子を食べて…何故か私だけ、こうなっちゃいまして…」
「それで、戻んのか」
「わっ、分かんないです…ずっと、このままかも…」

ぐに。

「にゃっ?!」

ザンザスが、名前の猫耳をつまみ上げた。
まさかと思ったが、本当にこの異物は名前の体から生えている、感覚もあるらしい。
ぐにぐにする度ににゃあにゃあと鳴きながら震えるものだからちょっと面白くて、自然にもう片手も伸びる。
この分だとマタタビを与えるとさらに面白いことになるだろうな、とも思ったが、そんな都合よくある筈も無く。

「(ちょっ、ルッス!あれっどうしよ…)」
「(どうするって…今アタシ達がしゃしゃり出たら殺されるわよ…)」

あのザンザスが、にゃんこの耳で遊んでいる。
笑っていられない状況なのに笑い出したくなるから、二人の唇は微妙な形で固まっている。

「にっ、にゃあ、っザ、ザンザスさんっ」
「……」
「もうっ…遊ばないで下さいぃ…」

ざっくりと手櫛を通す仕草も、猫が前足で顔を洗う様子にそっくりで。

ぱちっ、名前が不意に瞬いた。
気になる物を見つけたらしい、その視線の先を辿ると。

「…これか?」

名前のきらきらした瞳が見つめていたのは、ザンザスの髪の羽飾りだ。
飾りを外して目の前で揺らしてみると、「にゃっ、ぅにっ」と手を伸ばして捕らえようとする。
まるで猫じゃらしだな、猫らしい外見になっているのは耳だけのくせに習性は再現するとは、何とも中途半端なものだ。

そうやって暫くおちょくっていたが、一段落した頃に名前がくぁ、と欠伸をした。
そういえば猫は夜行性だったか、まだ昼だから眠いのだろう。

「来い」

小さな体を抱き上げると、名前はゴロゴロと喉を鳴らしながらザンザスの首元に頬擦りし、また欠伸をした。

「……フン」

ザンザスは、そんな名前を抱え、扉を蹴ってずかずかと医務室を出ていった。

『……あー…連れてっちゃった…』

名前の身の心配も大事だが、執行猶予が延びた今のうちにまず棺桶でも用意しようか、と残された二人は思った。
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