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「ねぇ、まじ…、まじ無理だよ。
ちょ……、ほんと無理。」
「…暗殺部隊が泳げなくてどーすんだぁ…」
「いや、あの…、そう!
わたし本当は人魚のお姫様なの!水に入ると人魚の姿に戻っちゃうんだけど、それを人間見られたら海に帰らなきゃいけなくてね、だから…」
「う゛るせぇえええええ!!!!!」
ばしゃーん。
叫び声と水の音。
青空高くに水しぶきが上がり、その雫はプールに映る綺麗な空に吸い込まれていった……んだよね、あれは。
よくわからない。
だって自分も、水しぶきと同じように偽物の青空に叩きつけられていたから。
───────…
「はぁあ、疲れたぁ…!」
「まさか泳ぐどころか、浮くところから始めなきゃならねぇなんてよ…、聞いてねぇぞぉお!」
「うるさい!もう一回サメに食べられちゃえ!」
「……それ、笑い事じゃねぇよ…」
今日はスクアーロに泳ぎを教えてもらう予定だったけど、浮く練習しかしなかったような気がする。
あーあ、本当に人魚なら良かったのに。
それでも、慣れない水に体力を奪われて、もうへとへと。
今日と明日は何も任務がなくて良かった。
ヴァリアーの軍事演習専用プールは深さ3m。それに縦横それぞれ50mずつもあるから、足も着かないし、縁に手も掛けられない。
普通じゃない…!
…と思ったけど、シャワールームは普通に男女別で左右に別れていたのでほっとした。
「それじゃ、わたしはこっちだから」
そう言って、右側に進もうとした瞬間、スクアーロに左腕を掴まれた。
「おい名前…ここまで付き合わせておいて、礼のひとつもねぇのかよ」
そういえば、せっかくの休みを裂いて付き合ってくれたんだっけ。
何だかんだ言っても、スクアーロは優しくて、面倒見が良くて、頼りになる。
「あ、ごめん、ありがとう!」
「そうじゃねぇだろ、」
「へっ…!?」
普通はよぉ、そう言ったスクアーロは腕を掴んだまま左側に進む。
外が暑かった所為か、中がやけにひんやりとしていたが、良く考えてみるとこっちは男子更衣室で。
「ちょっと、わたしは、」
わたしを無視してシャワーの下。
蛇口をひねると冷水。
でもすぐ温水に変わった。
ざぁ、という水が床を打つ音が、暗くて冷たい部屋に虚しく響く。
その他の音は、何も無し。
「な、に、」
この雰囲気はまずい、かも。
なんて思った時にはとっくに遅くて。
「礼は身体で払うよなぁ?
名前ちゃんよぉ…」
「…っ!?」
駄目、と制止しようとした手は抑えられて、噛み付くようなキスをされる。
びっくりしたけど、そのあと舌を入れられたことの方が、よっぽどびっくりした。
「…んっ……、」
頭が真っ白になっていく。
それはもう、思わず声が漏れるくらい。
スクアーロは角度は角度を変えながら、わたしの唇を食んだ。
何度も、
何度も…、
シャワーのお湯が、
滝に変わってくような気がして、
お ぼ れ る
(少しだけ、
泳げるようになったんだけどな)
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