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近藤に呼び出されたのだが、近藤がいない。
「おい、近藤さん見なかったか?」
「さあ、見ていませんね…それより副長、口の周りにマヨネーズが…」
「そうか。それからお前、ミントンしてねえで見回り行ってこい」
山崎の言葉も遮り、冷静に切り返す。一応ごしごしと口の周りを拭いながら、さらに軽く走ってキョロキョロと見回すが、近藤がいない。
「何処行ったんだ…?」
頭を掻きながら、向こうの角に沖田の後ろ姿を見付ける。またサボっているのか、と彼の方まで歩いていった。
「おい総悟。お前、近藤さん見な…何やってんだ?」
「近藤さん?知りやせんよ」
くるりと振り向いた沖田は、完全に焦っている。それもその筈、彼の前には土方の彼女である名前が居たからだ。
「あ、十四郎っ」
彼女は1人、ぱあっと顔を明るくさせた。
(( 会いたい ))
「で?何でお前が此処に居る?」
とりあえず彼女を部屋まで連れてくる。沖田も一応連れてきて、2人揃って正座させた。
「言っときますが、俺ァ悪くないですぜィ」
「じゃあ何でお前が一緒に居たんだ」
沖田は黙り込んだ。今度は彼女へ目を向ける。
「もう1度聞くが、何でお前が此処に居る?」
短気な副長で有名な土方だ。苛々とした口調で腕を組んだ。
「お、怒らない…?」
彼女は恐る恐るというように彼を見上げた。そう聞いてくるのは、大抵怒られるようなことをしたときだ。鬼の副長と呼ばれる彼が怒らない筈が無い。
「…あぁ」
少し考えてから頷く。怒るか怒らないかは、聞いてから考えれば良い。
彼女はチラリと沖田を見てから話しはじめた。
「総ちゃんが十四郎を潰そうと色んなもの作ってるって聞いたから、止めさせようと思って来たの」
「おい待て、総悟!てめっ、こっち見ろ!」
わざとらしく口笛を吹いて視線を逸らす沖田を怒鳴ると、彼女は苦笑いしながら続ける。
「だけどね、総ちゃんの話聞いてたら、楽しくなってきちゃってさ…面白そうだったから、私も参加しようかと…」
「おいィィィ!!何処に面白そうってだけで自分の彼氏殺すの手伝う馬鹿が居るんだよ!!」
「えへへーごめんね」
沖田は人に変なことばかり吹き込む。彼女にも毎回物騒なことを教え込んで。今回も完全に沖田が悪い。ノッてしまった彼女も悪いと言えば悪いのだが。
「もういい、分かった。総悟、お前は多分まだ庭に居る山崎連れて見回り行ってこい」
「へいへい、2人にしろってねェ…じゃあちょっくら、俺ァ厠にでも…」
「サボるなァァァァ!!!」
こういう瞬間が好きだ。くだらないやり取りが、堪らなく面白い。彼女はくすくすと笑う。
「何が面白いんでィ?」
「いや、ボケとツッコミって大事だなーって」
「ボケたつもりはねぇや」
ぶすっとした沖田を見て、俺もツッコんだつもりじゃなかったが、と土方も頭を掻いた。
「とりあえず早く行け」
「へいへーい」
さっさと沖田を追い出し、彼女へ向き直る。未だくすくすと笑う彼女。彼もつられてフッと笑ってしまった。
「何が面白ぇんだか」
「面白いよー」
ため息をついてみても彼女は変わらない。あのなぁ、と彼は説教を始める。
「とにかく、お前は此処に来るな。真撰組はそんなに一般人が入れるとこじゃねえんだぞ?」
「分かってるよー。でも、今日は十四郎を助けに来たんでしょ」
「よく言うぜ、一緒に殺そうとしてたくせによォ」
「あ、あれは楽しそうだったから つい…。じゃあ、だったら私、いつ十四郎に会えるの?」
さっさまで笑っていたくせに、もう叱られてしょぼんとしている彼女。その言葉に う、と詰まったのは彼だ。
「見回りの時、少し会えてるだろ」
「そんなんじゃヤだもん」
ぷくーっと頬を膨らませる。
「いっぱい話して、いっぱい笑って、ちょっとばかなことやって、最後はぎゅーってして…それが、できないじゃん…」
視線を逸らしボソリと呟くように言う彼女に一瞬固まったが、直ぐにフッと笑った。
「お前、そんなことがしてぇのか」
「な、煩っ、別に良いじゃんか!」
カァッと赤くなる彼女にますます口角を上げ、彼は後ろからぎゅうと抱き締めた。
「こーゆーのが好きなのか?」
こくん、と頷かれる。赤い顔をして、でも大人しく抱かれている。そんな彼女が愛しくて、耳元でボソリと囁いた。
「―――……」
「え?え?!」
くす、と笑うと、真っ赤になって睨まれた。そんなことはないと否定したいようなのだが、実際そうなので否定もできない。
『お前、俺に溺れてんだな』
余裕な彼に、ますます胸が高鳴ってしまった。
(まぁ、俺もすげぇ溺れてんだけどな…)
END
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相互記念に紅華様へ!今回はギャグ甘って言われたのに、ギャグ要素全く無くてすみません…ギャグが苦手すぎて焼けそうです。ギャグがない分、後半無理矢理甘くしてみました。またよろしくお願いします。
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