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それを知った瞬間、心が抉られたかと思った。

(だって、まさか、総ちゃんが…)

聞きたくないし、信じたくない。しかし、実際この目でも見てしまったのだ。
彼が、女の子とホテルへ入っていくところを。




(( 遠回り ))




最近彼の様子がおかしいとか、夜フラフラとどこかへ消えるとか、土方から聞いていた。しかし彼女は、彼は夜遊びをする人ではない、と気に掛けたりはしなかった。

彼とは幼なじみであり、よく会って話したりする。そして彼女が好意を抱いている相手でもあるのだ。ただ彼女ではないので、彼が女遊びをしていても何も言えないというわけだ。幼なじみだというのに、その距離がとてももどかしく感じた。本当は怖くて聞きたくないのだが、本人に否定をしてもらいたくて直接聞くことにした。それに、それと同時に気持ちを伝えよう、と。



その夜。
また彼はフラリと抜け出し、街へと歩きはじめる。彼女はそっと後ろから歩み寄った。

「…総ちゃん?」

ビクッと肩を揺らす彼。彼女の姿を確認すると、ハァ、とため息をついて見せる。

「こんな時間に、何の用でィ」

「総ちゃんこそ、何してるの?」

「…ちょっと出かけに行くんでさァ」

「何で?」

すると面倒とでも言いたげに頭を掻き、こちらを冷たく睨んでくる。

「お前には関係ねぇだろィ」

「何、それ…!」

(そんな言い方…)

彼女はキッと彼を睨んだ。

「総ちゃん、女遊びしてるって本当なの?」

「はィ?」

眉間にしわを寄せ、こちらへ歩み寄ってくる。

「何でお前がそんなこと聞くんでィ」

「やめてほしいの!」

強く叫ぶと、彼はククッと喉を鳴らし、彼女の顎を少し乱暴に掴んだ。

「好きな女がいるんだ。でもそいつァ俺のことなんて何とも思ってなくてな、しかも他の男とイチャイチャしてやがるときた。俺だけ一途に想ってるのも、ばからしくねェですかィ?」

冷たいその目で彼女を見下ろす。彼女は何も言えなくなった。

「もう放っといて下せェ」

彼は吐き捨てるようにそれだけ言うと、また彼女に背を向けて街へ歩いていった。
彼はひどく動揺していた。まさか彼女があんなこと。

「今さら、何だって言うんでィ…」

小さく呟くと、胸が苦しくなる。
小さい頃からひたすら想っていたのに、気持ちを伝える前に土方に越されるなんて。






数日前。
いつものように土方と見回りに行くと彼女に会った。そこでは、彼女は妙に土方と仲良さげに話している。いつも以上の笑顔で、土方に頭を撫でられても幸せそうで。前々から好きな人がいると聞いていたが、その時土方のことだと思ってしまったのだ。彼はひどく裏切られたような気持ちでいっぱいになる。本当は付き合ってもないのだが、彼の目には2人が本当に仲が良く、まるで付き合い立てのカップルのように映ってしまったのだ。



そんなことを思い返しているとボーッとしていて、ある女の子とぶつかってしまう。

―ドンッ

「痛っ」

「あ、すいやせん」

尻餅をついてしまった彼女に手を差し出して、「大丈夫ですかィ?」と尋ねる。性格は置いておいて、彼はなかなか顔が整っている。彼女はぽうっと彼を見つめ、彼もまたそれに気付く。

「お嬢ちゃん、なかなか可愛いじゃねえですかィ」

そして彼女を立たせて引き寄せる。

「今夜、どうですかィ?」

耳元で囁くと、彼女はコクンと頷いた。

それから彼女を抱いた。泣いても叫んでも止めてやらなくて。こんな時でも、彼の頭の中は彼女のことしかない。土方と名前はこんなこともしているのかとか、名前はこんな時どんな顔をするのかとか。考えれば考えるほど苛々は募り、しかしそれを毎晩繰り返した。






翌朝。
今日も土方と見回りだ。全く気乗りしないのでサボろうかと思ったが、それでも少しでも彼女に会えるのではないかと思ってそれができない彼は、相当彼女にハマっている。
パトロールの車の中で、土方がやっと重かった口を開いた。

「お前、夜遊びもほどほどにしろよ。名前が心配してんの、分かってんだろ」

「…別に、関係ないじゃねえですかィ」

「少しは分かってやれ。お前、名前の気持ちに気付いてねーのか?」

「…?」

彼がキョトンとすると、土方は「そーゆーことか…」とため息をつく。

「お前、名前のこと好きじゃねえのか?」

「はィ?」

「伝えねぇまま、逃げてどーすんだ」

「え…土方さん、名前と付き合って「ねぇよ」

呆れた顔で否定の言葉を被せてくる。

「名前に伝えろ。話しはそれからだ」

そんな土方に、彼は目を丸くすることしかできなかった。






そんな会話をした夜でも、もう習慣となってしまっていて街へと出かける。
しかしまた彼女に会ってしまう。今度は道に体育座りをしていた。

「…何してるんでィ?」

「あっ、総ちゃんっ」

顔を伏せていた彼女に思わず声をかけると、目に涙をためた彼女がガバッと顔を上げた。それに驚いて目を見開くと、彼女はすぐに気付いて涙を拭う。

「…泣いてたんですかィ?」

「泣いてないしね!ただ総ちゃん待ってただけじゃん!」

強がる彼女が愛おしくて、彼はしゃがんで座っている彼女を抱き締めた。

「総ちゃん…?」

「何でそこまで、俺に構うんでィ…」

「だってそれは…、」

彼女を見つめると、少し恥ずかしそうに視線を落とす。

「私、総ちゃんのこと――…」

彼女が言葉を口にする前に、それを遮るように口づけていた。びっくりして目を見開く彼女を余所に、何度も何度もキスを降らせた。それは、いつもその辺の女にはしない、優しいキス。

暫くしてから離れ、彼女の頬をそっとなぞった。

「好きなんでさァ、名前のこと」

「え…?」

「でもお前が土方の野郎と一緒に居やがるから…」

「だから?」

「……ちょっと、グレたんでさァ」

「………」

ばからしくなって、軽く1回だけ彼の頭を叩く。彼は何だと言うような顔で見てくる。

「何で最初っからそう言わないの!」

「うるせェ、お前だって言わなかっただろィ」

「じゃあ私達、すごい遠回りして…」

彼女の頭を撫でて、彼は目を細めた。

「すいやせんでした。遊んでたことも含めて、全部。俺すげぇかっこわりぃや…」

「ほんとだよ、もう!」

彼女はまた彼の頭を叩く。

「でもこれからは、私だけにしてよね…?」

彼は叩かれたところをさすりながら、フッと笑う。

「多分なァ」

「ちょ、総ちゃん!?」

(そんなこと、当たり前だろィ…)

そして はぐらかすように、再び彼女に口づけた。




END

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キリ番リク下さった癒嘉様、ありがとうございました!遅くなってしまってすみません。すごく難しいリクだったので悩みましたが、とてもお勉強になりました。全然書けなかったので切ないのも書けるように努力していきます。これからも頑張っていくので、よろしくお願いします。
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