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先日遂に、彼に言われてしまった。
「あなたって本当に、素直じゃないですね」
(知ってる、そんなこと)
彼女はそっと、視線を落とした。
(でもさ、好きだから、素直になれないんだよ…?)
しかしその想いは、伝わらない。
(( 言葉の代わりに ))
彼は2人っきりでもあまりベタベタしないタイプの人間だ。キスやそれ以上の行為は勿論何度かしているのだが、ずっとくっついて抱き合っていたり、愛を囁き合ったり、そういうことは一切しない。それは彼がしてこないというのもあるのだが、彼女が甘え上手ではないところからもくるだろう。何しろ彼女は、好きという単語さえ口にできないのだ。
(心の中では想ってるんだけどな…)
彼女はまた、少しため息をついた。
そんなことを考えていたら、今まで家を留守にしていた彼がやっと帰ってきた。
「こんにちは、来ていたんですか」
「うん、こんにちは。ちょっと遊びに来ただけだけどね」
そうですか、と呟くと、彼は縁側へと歩いていく。彼女もまた、それを追っていった。
「ねぇ、曽良くん。私ね、今日言いたいことがあって来たの」
「何ですか?」
「えっ、う…それは…、」
ただ『好き』と伝えたかったのだが、そんなすぐに出てくるはずもないし、簡単に言えたら苦労はしない。俯いてしまった彼女を見て、彼は少しだけ目を細めた。
「まぁ時間はたっぷりありますし、すぐ言わなくても良いですよ」
それは彼女の心情を読み取ったかのような発言で、彼女は少し驚きつつも微かに頷き、それから縁側に腰かけた。
少し涼しい風を肌に感じながら、彼女はまた一口お茶を啜った。
あれから彼は何も聞いてこない。きっと彼女の方からの言葉を待っているのだろう。普段無口な彼だが、今日はますます話さない。ただそんな沈黙にすら気付かないほど、彼女は先程から心の中で葛藤を繰り返していた。
暫くして やっと決心したのか、彼女は彼の服の裾をグイグイと引っ張った。
「あのね、曽良くん、」
「はい?」
トン、とお茶を置き、真剣に聞こうとしている様子の彼を見て、また少し胸がきゅんと鳴った。
「私、伝えたいことがあってね。…いつもは絶対、言えないんだけど」
「はい」
「…あの、ね」
ただ、ここまで言ったのに肝心な単語が出てこない。
「す、…す、」
カァァッと顔が熱くなるのを感じながら、なかなか言い出せない気持ちを伝えようと集中する。
「す、好…っ」
恥ずかしさの余りきゅう、と目を閉じると、ポンと頭に手を置かれた。
「もういいですよ」
「えっ?」
「…伝わりました」
優しくそう言われ、突然腕を引かれてそのまま抱き締められる。
「初めてあなたの気持ち、聞けた気がします」
「…だって、恥ずかしいし」
彼女も彼の首に腕を回し、少し甘えるように絡む。彼女にとっていつもできない、大胆な行為。しかしまだ、気持ちを伝えていない。いつもできない行動を繰り返している今日なら、もう何をやったって変わらない。彼女の胸はもう、これ以上ないくらいに速く強く高鳴っていた。
「曽良くん、」
「はい――…」
――ちゅ
彼女は初めて自分から、少し身体を伸ばしながらもキスをした。頬に軽くしただけなのだが、彼女にとっては大進歩だ。それに、彼の顔もみるみるうちに赤くなっていった。
「な…っ」
彼はそれを隠すかのように、彼女から離れて 背を向けてしまった。
「曽良くん?」
「…不意打ち、じゃないですか…っ」
「…照れてる?」
「て…照れてませんよ、何言ってるんですか」
とは言っても、こちらを振り向いた彼の顔はやはり赤かった。
「…いつも自分からしてるくせに」
「あなたからというのは初めてじゃないですか…」
「そんな変わらないじゃん」
「全然違いますよ」
彼は愛おしそうに彼女の頬に触れ、そして「口にしても良いですか?」と 小さく聞いてくる。コクンと頷く彼女を見て、彼は優しく口づけた。
いつもと比べると、とても恋人らしい時を過ごしてしまった。お互い素直になれない面もあるのでベタベタしないはずだったのだが。たまには素直になるのも悪くないかな、と彼女は密かに思うのだが、やはりなかなか好きとは言えない彼女であった。
END
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不意打ちに弱い曽良くんっていいかな、と唐突に思いついたネタ。キャラ違いすぎてごめんなさい。名前様、お付き合いありがとうございました。
20110923
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