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(…またですかー)

談話室へ来ると彼女はベルと話していた。楽しそうに笑顔を見せて、ベルがちょっと頭を撫でれば恥ずかしそうに俯いて。もう何十回と見ている光景にいい加減苛々してきて、彼はドアを思いっきり閉めて部屋へ入った。

「こんにちはー、名前センパーイ」
「あ、フラン!こんにちは」
「おいカエル、俺には挨拶ねえのかよ」
「あぁ、いたんですかベルセンパイー。こんにちはー」

2人っきりのところを邪魔されて軽く舌打ちをするベルをチラリと見る。そう簡単に彼女を譲ってなんかやりたくない。彼はそう思いながらベルを密かに睨んだ。

「あ、そうだフラン」

そんなことも知らず、彼女はふわりと笑う。

「今度の任務で当たるファミリー、術師が多いみたいなんだよね。フランにいろいろ聞いてもいい?」
「別にいいですけどー」
「良かった。じゃあ後でフランの部屋行く」

嬉しそうに顔の前で手を合わせる彼女。そんな笑顔にフランも、そしてベルも胸を高鳴らせた。その後彼女とベルは暫く話し込んだが、部屋へ帰るときにはフランと彼女が2人っきりになっていた。

「じゃあ行きますかー」
「お願いします!」

彼女はまたふわりと笑い、彼の後をついていった。




(( 両片想い ))




部屋へ着くと、彼は彼女にソファへ座るように促す。じゃあ失礼します、と彼女は一言添えてちょこんと座った。その隣に彼も座る。彼女はチラリと彼に視線を投げ、目が合うと気まずそうに下を向いて話題を考えた。

「そ、そうだ、術師のこと!」
「そうですねー」

本題を思い出したように彼女はぽんと手を合わせた。彼は彼女の方に体を向けるように座り、背もたれで頬杖をつく。

「幻覚って何か見破り方あるの?」
「んー、勘ですかねー」
「勘?」
「はいー。これは幻覚っぽいって直感で感じたものは信じない方がいいですー」
「幻覚っぽいとも思わなかったら?」
「…どかーん、ですかね?」
「ちょっと!真面目に教えてよ!」

どかーん、と手を広げると彼女はサッと顔色を変える。そう言われても勘以外で判断をしてこなかった彼は少しだけ眉間に皺を寄せた。

「うーん…ミーは直感以外はなかなか…とりあえず相手が術師であるならたいていのことが嘘だと思ってていいですー」
「え、フランも?」
「ミーを信用しなくてどうするんですかー」
「あ、そうだよね」

ふふ、と彼女は笑う。その笑顔に彼は視線を奪われた。彼女はよく笑うが、優しくて暖かいそれは見ている皆を虜にするように美しい。

「さっきベルも言ってたの、フランの実力はすごいって」
「ベルセンパイがですかー?」
「うん、ベルはいつも素直じゃないけどフランのことは尊敬してるんだよ、きっと」
「…………」

褒められているのは嬉しいが、彼女が他の男の話を嬉しそうにしているのを見て、彼は少しムッとする。2人っきりのときまで邪魔な恋敵であるベルの話をされたくはない。

「…名前センパイってベルセンパイと仲良いですよねー」
「え?」

突然変わる話題にきょとんとしながらも彼女はすぐに笑顔を見せた。

「あぁ、まあね。ベルはちょっと意地悪なところもあるけど優しいし、頼りになるしね」
「…………」

自分から話を振ったのだがますます苛々が募る。他の男を良いように思ってほしくない、と彼は彼女から顔を背けた。

「フラン?」
「…………」
「ねぇ、フラン、」
「…ミーは?」
「え?」

顔を覗き込もうとする彼女から逃げるように目を逸らし、彼は小さく呟いた。

「ミーのことは、どう思ってるんですかー」
「、フラン…」

ムスッと口を尖らせる彼が見える。鈍感な彼女ですら分かるくらい、彼は拗ねていた。彼女はぶわっと顔を熱くさせる。

「フラン、やきもち?」
「…何くだらないことを言ってるんですかー」

(あれ、自意識過剰だったか…)

どきどきしながら訊いた一言もずっぱり切り捨てられ、彼女は少しだけ恥ずかしそうに下を向いた。彼も下を向き、口元に手を添える。

(…何でバレたんですかー…)

まさか自分の気持ちに気付かれているのだろうか、とお互いが赤面した。2人で同じことを考え、黙り込む。沈黙がしばらく続いたが、初めに破ったのは彼女の方だった。

「な、なんかごめんね?私いろいろ聞けたし、そろそろ部屋戻るよ」

無理して笑う彼女の顔は緊張で引き攣っていた。彼はこくんと頷くことしかできない。部屋を去ろうとする彼女の頬が、赤い。

「っ、」

その赤を見た瞬間、彼は咄嗟に彼女の腕を掴んでいた。引き止めるような行動に彼女はますます赤を強める。

「え、フラン…?何して…?」
「あ、あのー」

我に返った彼は手を離す。何故引き止めてしまったのか、理由も分からない。離した手を落ち着きなく自分の項へ持っていって、ちょこんと添えた。

「…また、来てくださいー」

ぼわっと赤くなる彼の頬。彼女を引き止めて何を口走るつもりだったのか自分の中で分かってしまったらしい。彼は彼女にそう告げて部屋を出ていくように促した。彼女もまたそれに従って出ていく。

──パタン

静かに閉まったドア。彼はその場に突っ立ったまま。

(勢い余って告白するところでしたー…)

名前センパイはベルセンパイが好きなんだから我慢しなきゃいけないのにー、と根拠もなくそう呟いた。口にしてしまえば両想いだと、そのときはまだ予想もできていなかったのだ。




END

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シリーズばかり進めていたら文章の書き方を忘れてしまいました。拗ねてるフランを書きたかったのですが、ちゃんと拗ねられているでしょうか。名前様、お付き合いありがとうございました。

20120804
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