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モゴモゴと口を動かす彼を隣に、彼女はせっせと報告書を仕上げていた。

「ちょっとフラン、少しくらい手伝ってよ!」
「えー、今ミーとっても忙しいんですよー。モゴモゴ」
「何が忙しいってゆーの?!さっきから1人で遊んでるだけじゃんかっ」
「違いますよー、失礼だなー」

ふと手を止めて彼を怒鳴れば、彼は涼しい顔でそう言った。

「…じゃあ何してるっての?」
「さくらんぼのヘタを結んでるんですー」
「は…?」

先日、日本にいる彼女の母からさくらんぼが送られてきた。彼はそれが気に入ったらしく、いつも食べていたのだが…まさかそれが目当てだなんて、誰も思わない。そもそも、彼女はその意味すら分かっていなかった。

「…ヘタ結ぶって、手ぇ使ってないじゃん」
「使ったら意味ないんですよー。口の中で結ぶんですー」
「へ?ど、どうやって…?」
「舌を使うんですよー。案外楽しいですし、センパイもやってみますー?」

ずいっと目の前にさくらんぼのヘタを差し出され、彼女は目をぱちくりさせた。

「えと、これを…?」
「口の中入れて下さーい」

彼女は素直に従った。

「そしたら?」
「まずヘタを輪っかにするんですよー。それから、舌を使って、その輪の中に一方の端を押し入れて、そのままきつく結ぶんですー」

彼は説明しながらモゴモゴと口を動かし、しばらくしてからヘタを取り出した。

「ほら」
「わーすごい!」

そこにはきつく結ばれたそれがあり、彼は簡単だと言わんばかりに次のヘタを口の中に含んだ。

(よーし、私だって…!)

彼女はモゴモゴと口を動かしはじめる。

(うっ、くっ!あと少しっ)

「はい、もう1つ出来ましたー」

(あと少しなのに…!)

「3つ目ー」

口を動かしながらチラリと彼の方を見ると、着々と増えていく結ばれたヘタ。

(私1つもできてないのにー…っ)

口の中で輪にするまでは何とか上手くいくのだが、そこから先はどんなに舌を使ってもできない。

(悔しー!!!)

さらにモゴモゴと口を動かすが、彼は順調に結んでいくばかりで、彼女には何ら変化はない。だんだんと苛々してきた彼女は、ついに口からヘタを取り出してしまった。

「はっ、ヘタなんて舌で結ぶもんじゃないしっ」
「もうギブアップですかー?結構長い時間使ってたわりに、情けないですねー」
「う、煩い!」

大体、と彼女は付け加える。

「こんなの結べたからって、何にもないじゃんか」
「ヘタを結べた人は、キスが上手いって言いますよー?」
「…はぁ?」
「まぁ、仕方ないですよねー。名前センパイ、キス下手そうですしー」
「ぐっ…!」

その彼の言葉に、彼女は気まずそうに視線を落とした。

(ファーストキスだってまだだもん…!)

そんな反応に『おっ?』と、彼は意地悪く笑った。

「名前センパイ、図星ですかー?」

(図星ってゆーか、したことないんだってば!)

「煩いなぁ、フランよりは確実に上手いしっ」
「ふーん、言ってくれますねー。じゃあミーで、試してみますー?」

彼の不敵な笑みに嫌な予感を感じつつ、彼女はゆっくり後ずさる。

「ち、ちょっと待ってフラン…!」

彼が彼女の顎に手を掛けたとき、彼女は全てを察した。

(奪われるっ)

後輩のくせに彼の力は意外と強く、グイッと手首を掴まれてしまう。
それから、予感的中。彼女は強引に唇を奪われた。

「っ、ん…!」

ちゅ、ちゅ、と啄むように何回も口づけられ、彼女はぎゅうっと目を閉じた。と、そこへ、いきなりフランの舌が侵入する。

「んぅっ…?!」

びっくりして思わず舌を引っ込めてしまったが、彼にしっかり絡めとられ、そのまま引きずり出される。優しくなぞるように舐め上げたかと思えばいきなり軽く吸ってきたり。彼女の口腔を楽しむようにクチュクチュと音を立てて彼女を翻弄していく。
角度を変えながら何度も口づけていると、だんだん彼女の足がカタカタと震えてくる。力が入らなくなっていき、ソファに凭れ掛かるように倒れていく。彼のシャツをぎゅううっと掴んでみるがその手にさえ力が入らずにずれ落ちていった。
完全にソファに身を沈めてしまった彼女に気付き、彼は満足気に笑ってやっと彼女から離れた。そしてニヤニヤと笑いながら、彼女を見下ろした。

「あれー?ミーより上手いとか言っといて先に腰抜かしちゃうなんて、どーしたんですかー?」
「煩い…っ」

彼女はキッと彼を睨むと、自分の服の裾を掴んだ。

「悔しー!フランのくせにっ!」
「ヘタも結べないセンパイに言われたくないですー」
「私だってフランのこと腰抜かさせてやるんだからぁっ」
「それは楽しみですねー。じゃあやってみて下さいよー」
「うっ…まだ、無理だけど…っ」

彼はフッと笑ってから、彼女の頭をよしよしと撫でた。

「ほんと可愛いですねー、センパイ」
「…ばかにしてるでしょ」
「してませんよー」

それから彼はニヤリと笑って彼女を見た。

「ヘタじゃあ一生かかっても無理ですよー。ミーが実践してあげるんでー、ちゃんとやり方覚えて下さいねー?」
「ッちょ、待ってよフラ…、んんっ、」

そして再度深く口づけられ、彼女はソファに押し倒されていた。




END

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さくらんぼのヘタのネタって有名ですよね。王道なものほど書きたくなるアレが発動しました。名前様、お付き合いありがとうございました。


20110924
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