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玄関を出るとびっくりした。校門に大勢の人がたまっていて塞がってしまっている状態なのだ。別に急いではいないが、たかが校門をくぐるのに何故並ばなきゃならないんだ、と彼女は思った。




(( 映画の目的 ))




(一体何があるって言うのさ…)

半ば呆れ顔でその辺にいた女の子に話し掛けてみる。

「あのー…どうしたの?」
「ん、ああ?何か金髪の良い男が迎え待ちだったと思う…」
「ふーん…」

(金髪?不良にキャーキャー言ってるってこと?)

彼女はますます呆れ、その女の子達に視線を移す。そんなにかっこいいものか、と門をくぐる際にチラリとそちらを見てみると、そこには彼女の恋人である、ディーノが立っていた。

「えっ…」

(ディーノ?!)

2度見してみるとやはりディーノが立っていて、彼は女の子に囲まれて愛想笑いをなんかしている。

(何あれ…っ)

彼女は一瞬ムッとし、そのまま彼の方へと歩いていった。

「ちょっとディーノ!」
「ん?…あっ、名前!」

(今絶対気付かなかったでしょ…)

苛々と彼を見つめると、彼は不思議そうに首を傾げた。

「…どうした?」
「別に。早く帰ろっ」

そう言って彼女は彼のシャツの袖を掴み強引に女の子達から引き剥がす。ズカズカと進む彼女に引っ張られ、彼はよたよたしながら校門を出てやっと止まった。

「…今日はどうしたの?」
「ん、仕事帰りに会いにきた。明日までスケジュール空けたから」
「一緒にいても良いってこと?」
「そーゆーことだな。これからデートしようぜ」

彼が笑ってみせると、彼女はすっかり機嫌が良くなったようだ。単純、というか、ただ妬いていたから解決したのか。

「ちょうど良かったぁ。私ね、観たい映画があったの!」
「ああ、行こうぜ」

彼らのいつものお決まりのデートは、映画を観ることだった。それから彼女は、いつも思ってたけどさ、と続ける。

「私はさ、映画大好きでしょ?だからいーっぱい行きたいけど、ディーノは何で映画が良いの?私が映画って言うから?」
「ん、違ぇよ?俺もあの…、好きだから」
「何が?」
「え…と、……内緒」

彼は多少視線を泳がせながら そう言った。彼女はよく分からなかったが、ふーんと呟いて映画館まで歩いた。
大抵彼は彼女に合わせてくれて、スーツから私服に着替えてきてくれたり、車の日や歩きの日など乗り物の選択までもが彼女中心で考えられている。ちなみに今日は彼女が制服だからスーツ、徒歩だから歩きだ。歩いて行くときはいつも手を繋いでいて、彼女にとって1番幸せな瞬間かもしれない。

彼は薄々予想はしていたが、やはり彼女の観たい映画は恋愛ものだった。映画館につくと映画はすぐに始まり、彼女は画面へ釘付けだ。ディーノはといえば、飲み物を口に含みながら映画はチラリチラリと観る程度だった。それよりも見たいものがある。真剣に映画に魅入っている彼女の横顔だ。
それから、どれだけの間見ていたのだろう。彼女の表情が徐々に暗くなっていく。チラリとスクリーンに目をやると、男女が病室で話している。

(彼氏の方が病気になったってことか…?)

彼女の目にはだんだんと涙がたまっていって、ディーノは気まずくなって目を逸らした。

(ばかだな、俺…)

泣いている彼女ですら可愛いと思ってしまっているだなんて、と苦笑いする。彼女の手をそっと握ると、彼もまたスクリーンへ視線を戻した。
彼女は相変わらず涙もろくてまだ周りの者達が泣いていない場面から涙を流していたのだからラストの感動シーンでは勿論号泣だった。彼も多少ジーンときたが彼女の前で泣けるはずもなく、1人耐えていたぐらいだ。

劇場が明るくなれば、中にいた客達はどんどん出ていく。彼はまだ当分出れないな、と思いながら彼女に目をやれば、案の定彼女はまだ泣いていた。毎度のことだと彼女に向き直り、優しく頭を撫でてやる。

「いい加減泣き止めよ、な?」
「だっ…て、み、あ、かわいそ、で…っ、」
「おいおい…ちょっと深呼吸しろ」

嗚咽交じりに話すもんだから、何を言っているか分からない。彼女はコクリと頷くと小さく深呼吸をした。

「ほーら。泣くな泣くな」
「う、…っ」

それでもなお彼女の涙は枯れることを知らない。

(やべ、可愛い…)

彼は反射的にそう思い、次の瞬間、自分の手が勝手に彼女の顎を掴んでいて、そのまま自分の唇を彼女のそれに重ねていた。

(ああ…俺のばか。ほんと不謹慎)

すぐに離れたら彼女はキョトンとした目で彼を見つめていた。それからすぐにカァァッとでも聞こえそうなくらい顔を赤くして下を向いてしまう。強引に顔を上げさせると、親指でそっと彼女の目をなぞった。

「涙、止まったじゃねえか」

ニヤリと笑ってみせたらまた俯かれる。

(ディーノのばかぁ…っ)

もう皆出ていってしまって2人っきりだとしても公共の場でキスをしてしまったことに彼女はますます赤面した。それから彼はぎゅう、と彼女の背中に腕を回して優しく抱き締めた。

「落ち着くまでこうしててやるよ」
「うん…ありがと…」

(この瞬間が1番好きかもしれねぇ…)

彼が映画館に行きたがる理由はこれが大きいようだ。

(でも私、もう恥ずかしくて顔上げれない…)

彼女は大人しく彼の胸に顔を埋めた。




END

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このバカップルめ!という仕様になっています。名前様、お付き合いありがとうございました。

20111101
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