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彼女の前には、またあの男が立っていた。

「ねぇ 君、何度言ったら分かるわけ?」
「別に、人には迷惑かけてないじゃないですか」
「でも校則違反だよ」
「雲雀さんには関係無いでしょ?」
「ワォ、僕が風紀委員長だってことを知らないのかい?生徒には校則を守らせる義務がある」
「じゃあ雲雀さんのトンファーも、校則違反ですね」
「僕のこれは、校則違反じゃないよ。だって武器を持ち込んではいけない だなんて、生徒手帳には書いてないはずだけど?」
「…はぁ、もう頭が痛くなってきましたー。ほんと話通じなくて困ります」
「君、喧嘩売ってるの?そろそろ素直に従わないと、咬み殺すよ?」

彼らの朝は、いつもこの言い合いから始まる。正門でのこれは毎朝欠かさずと言って良いほどよく行われていた。理由は、彼女のスカート丈が校則以上に短いからだ。彼女はもう一度大きなため息をついて見せてから、彼を無視して横を通り過ぎようとした。

「ちょっと待ちなよ」
「……まだ何かあるんですか…」

呆れ顔の彼女に多少苛立ちを覚えながら彼はムッとした顔をすると、彼女にこう言い放った。

「君は並盛中生としての自覚が足りないよ。…放課後、応接室に来て」

彼女は本日3度目の盛大なため息をついた。




(( 校則違反 ))




(あー…やだなぁ…またお説教だよ、絶対…)

授業が終わり、放課後。彼女は彼に言われた通り応接室へと向かい、今そのドアの目の前に立っている。

(バックれちゃおっかなー…いやでもそしたら明日の朝が怖いし…)

1人でもんもんと悩み続け、早10分が過ぎていた。

(怖いなぁ…殺されない、よね…?)

「あああ、どうしよう…」

彼女は頭をフルに回転させ、必死に考えた。

(でももし私が(口で)勝てば、今度から雲雀さんは、私に何も言わなくなるかもしんない…)

彼女は決心したかのように、勢い良くドアをノックした。

「失礼します!」
「……あぁ」

彼は何やら書類を書いていたみたいだが、彼女に気づいて顔を上げる。

「やっと来た。遅いから そろそろ呼び出しの放送をかけさせようとしたところだよ」

僕を待たせないでよね、と付け加えてから、彼女にソファに座るように促した。

「じゃあ早速本題だけど、まずは君のスカート丈、直してもらおうか」
「嫌です」
「何故?」
「私はこれが好きだからです」
「でも君の我が儘は聞いてられないよ」
「良いじゃないですか。雲雀さんには迷惑かけてないでしょう?」
「迷惑だよ。そんなチャラついた着こなしでうちの制服を着るなんて。この学校の評判が下がるってことは、風紀委員長である僕の評判が下がるってことだ。これ以上ここの風紀を乱さないでくれる?」
「……っ」

彼の言っていることは正しくて彼女は悔しそうに下を向いた。それを見て、彼はやっと1つため息をつく。

「第一、何故そんな格好をするのか、僕には理解できないね」
「雲雀さんは女の子じゃないから分からないんですよ」
「そう? だって、そんなに脚を露出して男の前でも平気にしてるなんて考えられないよ。誘ってるの?」
「違います!でもこっちの方が可愛いから…」
「へぇ?じゃあ その、胸元のボタンを開けるのも 可愛いの?」
「…そうですけど?」
「ふーん…」

彼は納得いかないように呟く。

「じゃあもう良いよ。好きにすれば?」
「えっ、本当ですか?!」
「うん。もう君なんて知らない」

(やったぁーー!)

突然彼はそんなことを言い出して、それを聞いた彼女は心の中で強くガッツポーズをした。

「好きなだけボタンを開けて、好きなだけスカートを短くすれば良いよ。ほら」
「…えっ?」

彼はそれを促す。

(いや、今ので十分なんだけど…)

彼女は少し焦りながらも彼を見詰め返した。

「あの、もうこの丈で十分なんですけど…」
「何で?短い方が可愛いんでしょ?」

彼がスカートをグイッと上に捲り上げてきたので、彼女はぎょっとして彼の腕を掴んだ。

「いっ、いいです!いいですってばっ」
「可愛いなら良いでしょ。ほら、こっちも」

それからシャツのボタンを外されて、必死に抵抗したが力じゃ敵わない。

「止めて下さい!もう、いいですから…っ」

しかし彼が止めてくれることはなく、とうとうシャツを脱がされてしまった。

「これでも誘ってないっていうの?君、バカなのかな」
「違っ、雲雀さんが、勝手に…っ」
「僕は『可愛く』してあげただけでしょ」
「……ッ」

そして彼は彼女から手を離すと、ふぅ、と立ち上がる。

「何で君はそんなに強情なのかな。君だけだよ…僕の思い通りにならないのは」

切なそうに目を伏せ、そのまま彼女に告げる。

「別に今度から、僕は君の服装について 何も言わないよ。…ただ、またそんなことをしていたら、今みたいに『可愛く』するの、手伝ってあげる」
「なっ…!」

顔を赤くした彼女を見て、彼はやっとクスリと笑った。

「また応接室においで。定期的にチェックしてあげる」

その笑い方は妖しく、彼女のこめかみには嫌な汗が伝うのを感じた。



翌朝、彼女のスカート丈はまだ校則よりは若干短いのだが、いつもよりはずっと長めになっていた。




END

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その後「まだ短いよ」「え、」「校則は校則、守ってない君が悪い」って今度こそ身体に教え込まれていたりして。名前様、お付き合いありがとうございました。

20111016
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