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風邪については幾つかの迷信があるらしいが、そんなもの信じられるはずがない。スクアーロが風邪を引いた。あの、スクアーロが。
(( 熱っぽく色っぽく ))
「けほっ、けほっ」
「………」
(まさか、そんな…)
「こほっ、ッあ゙〜〜…」
(いや、だってスク馬鹿だし、そんな…)
彼女はソファの上で脚を組み、静かにココアを啜る。チラッと視線を向ければ、彼は苦しそうに咳をしている。
(いやいや、ないない。だって馬鹿は風邪引かないって…)
しかし咳がとても酷く、見ていられなくなった彼女は、彼にスッとココアを差し出す。
「ほら、飲んで。喉に少しは良いらしいから」
「…ありがとなぁ」
いつもより反応の遅い彼は、きっと熱があるのだろう。そんなこと彼女だってとっくに分かっていた。しかし気付かない振りをしているのだ。
(だってだってだって…!何かスク、えろいんだもん!)
またチラリと彼を盗み見ると、必死にココアを冷まそうと息を吹き掛けている。いつもより潤んだ瞳、熱っぽく魅せられる肌、綺麗に垂れる長い髪。さらにはその熱い吐息さえ色っぽいと思えてくるのだから重症だ。そんな彼のフェロモンにやられ、彼女は彼に触れたくて触れたくて仕方がない。その上今この状況、彼の部屋で2人っきりだなんて堪えられるわけもなく。
(お願いだから私を追い出して、早く寝ててよーっ)
ダラダラと変な汗が伝いながらも、彼女はうっとりとした目で彼を観察していた。
「ス、スク…もう寝てた方が良いんじゃないの…?」
ドキドキしながらそう言ってみるが、彼は彼女にトロンとした目を向けただけで、何も言わない。
「ス、スク…?」
「…ん、寝る…」
一瞬、息をするのを忘れた。
(ど、どちら様?!)
目の前の彼が可愛くて仕方がない。ポーッとしている姿も勿論だが、口調が変わってしまっているのにびっくりだ。そんな彼を目で追っていると、彼はいきなりシャツを脱ぎはじめる。
「っ?!ス、スク!何、して…っ」
「ん゙?」
目のやり場に困りオロオロしていると、彼はキョトンとした顔をした後、理解したかのように頷いた。
「熱ぃ。着替える、だけだぁ…」
「あ、ああ、そうだよね…」
(びっくりした…!)
ふぅ、と息を吐いてから、彼をチラッと盗み見た。程よく筋肉のついた色っぽい身体。今日は熱のためか少し色づいていた。
(や、やばい…)
彼女はゴク、と喉を鳴らす。フェロモン流出しまくりの彼は、そんな彼女の視線に気付いたのか、少し首を傾げる。
「…どうかしたかぁ?」
(その前に服着てーっ)
そう思いながらも首をぶんぶんと横に振る。それにますます首を傾げた彼は、ゆっくりと彼女に近づいていき、彼女のおでこに触れた。
「…うつしちまったかぁ?」
悪ぃなぁ、と柔らかく言う彼に堪えられなくなり、彼女は思わずぎゅう、と彼に抱き着いた。
「っ?!」
「ごめんスク!もうスクかっこよすぎるよ!」
「…ん゙?」
ワンテンポ遅れて、気の抜けた返事。ヤケになった彼女は、彼の胸に顔を埋めながら言葉を続けた。
「色っぽすぎるよ、ばか!…もう抱かれたい…」
「…お前、人が苦しんでる間に、ったくよぉ…」
彼はそのままドサリ、と彼女を押し倒し、その上に覆いかぶさるように彼女を抱きしめた。
「俺の体温、これ以上上げさせる気かぁ…?」
「、え…?」
彼を見上げると、それと同時に彼が口づけてくる。ちゅ、と少し重なっただけだが、熱く熱を持った唇に驚いた。
「スク、まだ寝てなきゃ…、」
「これ、もらってくれるんだろうなぁ?」
それからけほっ、とわざとらしく咳をする彼に、彼女はカァッと顔を赤くした。
「ちょっと、ダメダメ…っ」
「お前が言い出したんだろぉ…」
再び口づけてきた彼に、もう彼女は逆らえなかった。いつもより格好良く見えるし、熱いそれが心地好い。サラリ、と頬にかかった彼の長い髪も、色っぽく銀に光っていた。
「もう…ばか…」
(好きにして…)
彼女は彼の首に腕を回すと、もう一度、今度は深く口づけた。
END
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病人に欲情する変態主人公ですが、それに煽られるスクアーロも変態ってことで。名前様、お付き合いありがとうございました。
20110930
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