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―ダンッ
「…あぁ?」
―ダンッ ダンッ
激しくドアが叩かれる音で、彼は報告書を書いていた手を止め、時計に目をやる。もう時計の針は午前0時を過ぎていて、彼は深くため息をついた。
(誰だぁ、こんな時間に…)
少し用心しながらドアを開けると、そこには顔を赤くして泣いている恋人の姿があった。
「な…!ど、どうしたんだぁ?!」
「う〜スク〜…っ!一緒に呑んでよぉ〜!」
彼女が腕の中に抱えている大量な酒といつもより少し甘ったるい声で、彼女が酔っていることがすぐに分かった。
(( お酒のちから ))
ヒック、としゃっくりを繰り返す彼女を心配しながら、彼は軽く頭を掻いた。
「でねっ、ボスがねっ、また怒鳴ってねっ」
「あぁ」
「うるさいって言ったらねっ、怒られてねっ、ムカつくのっ」
「…あぁ」
先程から訳も分からない愚痴を聞かされている。きっと、ザンザスに怒られ、カンに障ることを言われたのだろう。
「スクもさっ、何でいつも言われっぱなしなのっ」
「ゔぉぉ…だって俺は慣れてるしよぉ…」
「もー!このドMっ」
「なぁ゙っ?!」
Mじゃねえ、と言い返したかったが止めておいた。酔った彼女に言ったところで何にもないし、さらに怒らせるだけだ。彼女はもう1杯ぐいっと呑むと、そのままバフッとソファに身を投げた。
「ゔぉぉい、大丈夫かぁ?」
「ん…もうヤだぁ…」
そんな言葉を最後に、ボロボロと泣き出した彼女。彼はギョッと目を見開き、オロオロと彼女に駆け寄った。
「ゔぉぉい!どうしたぁ?!」
「もう嫌なの!嫌い、大ッ嫌いーっ!!」
「っ!」
(そんなムカつくこと言われたのかよぉ…)
彼女がそんな言葉を口にするのは滅多にないので、彼は何と言ったら良いのか分からずうろたえた。すると、怒りの矛がこちらにも向いてくる。
「ちょっとぉ!スクも、何で慰めてくんないのっ」
「わ、悪ぃ…」
彼女は怒鳴り散らし、彼の胸を小さく叩いた。彼は戸惑いながらも彼女の頭へ手を伸ばすと、ちょこちょこと頭を撫でてやる。
「………」
無反応。チラッと彼女に目をやるとムッとした顔で、案の定超不機嫌。
「そんなやわやわした慰め方があるかあ!」
「じゃあどーしろってんだぁ?!」
(女にこういうとき何やって良いかなんて分かんねぇんだよぉ!)
そう心の中で付け足し、彼女に目を戻すと、泣いている。
(何でだぁぁ!!!)
それから唐突に言われる一言。
「スクー…えっちしよぉ…」
「っ、はぁっ?!」
「それでさぁ…、」
―グイッ
胸倉を掴まれた彼は、そのままソファに押し倒される。その上に彼女が乗ってきたもんだから、彼は目を見開いた。
「ちゃんと慰めてよぉ…」
(お前人格変わりすぎだろぉ!)
このままだと自分が犯られる?!と思った彼は、焦って彼女を押し倒し返した。
「っ?!」
「…こ、これで良いんだろぉ…」
それからちゅ、と口づけると、いつもより熱く少し湿った唇。彼女は自分から口を開いてくるので、彼も素直に舌を絡めた。何の音もない部屋に、彼女の微かな甘い声だけが漏れて響いていた。
「はっ、ん、ん…」
噛み付くような深いキスを何度もされて、最後は本当に噛み付かれた。カプ、と下唇を噛むと、彼女は離れたくないとでも言うように、彼の首に腕を回す。
「はっ、は…、」
彼は離れようと思ったのだが、彼女が小さい声で『もっと…』と呟いたもんだから、再度口づけることになってしまう。角度を変えてその感触を楽しむように舌を動かすと、ふと彼女の腕から力が抜けた。不審に思って彼女に目をやると…、
「寝て、る…?」
スゥスゥと規則正しい寝息と、涙の跡を残して閉ざされた目。その涙の跡をなぞりながら、彼は安心したように ふぅ、と息を吐いた。
「…ったく、」
(可愛い寝顔しやがって…)
彼は小さく微笑み、彼女に毛布をかけてやった。
(…って、生殺しかあぁ!!)
END
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初めて見る大胆な彼女に欲情してきたところらへんでお預けくらっちゃうようなスクが愛しいです。この後1人で照れてたら可愛いです。名前様、お付き合いありがとうございました。
20110929
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