未だに賑わっている運動場。
しかし先ほどよりは準備が進み、至る所にテントやイスが並んでいる。

「なぁ…白石。機嫌悪すぎなんとちゃう?」

退場門の柱を持って少し控えめに白石に問う謙也。
同じクラスで同じテニス部員…他の同級生よりも一緒にいる時間が多い故に機嫌が悪い白石の恐ろしさを熟知している。

だから今の白石に問いかけても答えないとわかっていたが、聞かずにはいられないのが忍足 謙也という人間。
小さい溜め息を吐き出した…。
それは謙也のものではなく前にいる彼のもの


その哀愁漂う横顔の先には背の高い下駄を履いたよく知った男と去年同じクラスだったよく知る少女が仲良く作業にあたっていた。
この光景を見て気付かないほど謙也は鈍い男ではない。


白石の機嫌が悪い原因はこれか…。


「口に出さなわからんこともあるっちゅー話や。特に城野はな…」

「…せやな」

部活や人柄的に男友達が多いだけで城野が鈍感だと言っているわけでなく、それを理解しているが故に今白石は苦しんでいる。

別の言い方をすれば、それぐらい白石は城野のことが好きだということ。


「蔵ノ介ーっ!!謙也くーんっ!!」

遠くから微かに聞こえる声。
ウワサをすればなんとやらとはこのことやな…と謙也は一人納得した。

こちらに向かってくる結花の顔は今の白石の心境とは真逆である。
それは、結花の隣を千歳が歩いているから…。

「あとコレを運んだら終わりだね!」

ニッコリと白石に微笑む結花は眩しい。
その眩しさに白石も知らず知らずに微笑み返している。
その顔は優しい。
先程のことなどなかったかの様に...。


―あぁ、
 やっぱり俺には…―


「お似合いばいね…あん2人」

謙也の横にいた千歳が小さく零した言葉。
それが聞こえた謙也は千歳の方を見上げた。
同時に千歳も謙也の方を見ていた。

その時の千歳の表情といったら…。

表情といったら…。


「そやな…。白石には水野が。城野には白石が必要不可欠やったっちゅーこっちゃ!」


そう言った謙也の表情はさっきの千歳の表情と同じく、大切な人を見るように優しい眼差しと笑顔をしていた。

傾いた太陽も優しい光を放っている、そんな体育祭前日。





2011.9/2  


Title by  Aコース様 


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