なんてことのない月の光でさえ眩しくて
雲で隠れてしまえと切に願った。

きっと今君に会ったら目を向けられない
君は眩しすぎるから…。




吐き出した息は白くなり空へ消える。
さっきからそんな空をずっと見てた。

感覚が麻痺して寒さが一切わからん。
どれぐらい長い間この場所におるんかもわからん。
…悲しいんかもわからん。


心に風が吹き抜けていく。
思ってたよりポッカリと心に空いた穴は大きいみたいや。

零れ落ちた溜息はまたも白くなり空へ消える



靴箱の方から音が聞こえた。
その音で我に返って時間を確認すると8時を回ってる。
部活をしていたにしては長いし、自主練していたにしては遅すぎる。
考えを張り巡らされている間にも近づく足音

後ろを振返るとその先に居ったんは同じクラスの城野。

上げられている城野の視線と絡まる・・・
が、直ぐに城野は視線を気まずそうに下げた。

きっと噂を知っているからやろうと直ぐに推測できる。
それぐらい、付き合っただの別れただのという噂が広まるのは早いから。
何回か経験してるから馴れてきたけど、腹立たしいもんや。
しかし、そないなことを思うんは自分が中心となってる噂やからで、コレが他人の噂やったら腹立つこともなんもあらへん。


― 人の不幸は蜜の味 ―


正しくその通りっちゅ―ことや。



でも、城野はそんなこと思うような奴と違う。
その証拠に、目を泳がせとる。
何度か口を開いたり閉じたりを繰り返しとったけどやっと声を出した。

「辛いとは思うけど、別れてよかった・・・って私は思うよ!」

発せられた言葉は俺の予想に反したもの・・・
何を思ってこんなことを言ったんか。
城野の意図が全然わからん。

「まだ好きだけど、納得なんてしたくなかったけど、これでよかったんだって私は思った・・・」

辛そうに笑いながら告げられた城野の気持ち。
そういえば、彼女のそういう噂を聞いた覚えがあった。
俺はそんな彼女に目を向けることができへん。

「・・・気ぃ使わせてすまん」

「部活と恋人を天秤にかけられるのってイヤだよね・・・。どっちも大切だし、どっちも同じぐらい好きだもん。人と物を比べちゃダメだよね?」

最後はおどけた風な口調やったけど、水野も同じような経験をしてきたからこそおどけて言えるだけであって、経験してない奴が言うたらただの綺麗事にしかすぎひん。
城野の話を聞きながら知らんうちに俺も口を開いてた。

「最初はよくても、それだけじゃ満足できへん・・・。それは俺らかて一緒や」

苦笑いを浮かべ「大切なものが増えると困る」と言う彼女は何故か輝いて見えた。
それは幻覚じゃなくて、さっきまで雲に隠されとった月が顔を出して光りだしたから・・・。


その日を境に俺と城野はよく喋るようになったし、城野がテニス部の奴等と喋るようになった。
暫くして、白石と付き合い始めたということを幸せそうな顔して報告してきた。
白石やったら城野を悲しませるようなことをせぇへんとわかってるけど、その時の俺はなんでかチクリと胸が痛んだ。

もしかせんでも俺は・・・。

ソレに気付いたらあかんとそこで思考回路をスットプさせる。



2年の終わりの時、俺は失恋をした。
辛くて、悲しかった。
けど、それと同時に大切なもんを君から教えてもらった。


願わくば、君がもう悲しみませんように。
一人の男として心から思う。






2011.9/2  

謙也との過去話

Title by  Aコース様 


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