部活も終わりいつものように白石と一緒に帰るべくテニスコートへ急いだ。
結花がコートに着くとテニス部も終わったているようでコートには自主練をするであろう人がいる。
その中に姫華の待ち人である白石の姿も在った。
白石の姿を確認すると頬を緩ませてベンチへ腰掛ける。
暫く、練習風景に見入っているとカラコロと下駄の音が聞こえた。
「寒くなかと?」
横を見上げると千歳が姫華に温かい缶コーヒーを手渡しながら話し掛けた。
春になったとはいえ、日が傾くと流石に寒くなってくる。
礼を言い、受け取ったコーヒーで手を温めてからプルタブを開けた。
「千歳君に言われるまで気付かなかったよ」
少し苦笑い気味な笑みを浮かべ、千歳が座れるように横にづれる。
結花は横に座った千歳にテニス部のことを聞いて、千歳も城野に次の大会へはどうかを聞いたりなどと色々話していると時間は早く過ぎていく。
すると、千歳は立上り口を開いた。
「白石の自主練も終わったけん、俺は帰るばい」
言うが早いかテニスバックと結花と千歳が呑んでいたコーヒーの空き缶を持って帰って行った。
と同時に、着替え終わった白石が入れ違いに姫華の元へ来た。
「だいぶ遅なってごめんな、結花」
少し待っているだけでも直ぐに謝ってくる白石に結花は立ち上がりながらクスクス笑った。
「久しぶりに蔵ノ介がテニスしてる姿見れたから気にしないで?それに待ってる間、千歳君と喋ってたからそんなに待ってる気がしなかったし。…そういえば、千歳君に缶コーヒー代返してない」
結花が言ったことに白石が少し眉間に皺を寄せている。
じっと待たせて暇にさせるよりはいいはずやのに…と白石は自主練してことを後悔した。
少し前から「蔵ノ介?」と呼ぶ声に我に返るとテニスバックを担ぎ直して結花の横に並んだ。
缶コーヒー代を返していないと言っていた彼女は明日にでも律儀に千歳に返しに行くだろうから、白石から返しておくことを伝えると姫華は「ありがとう」とフワリと笑った。
「千歳と待ってる間、何話しとったん?」
「次の大会とか、体育大会何に出るのかとか話してたよ。蔵ノ介は何に出るの?」
他愛のない話でも白石の中に嫉妬の念がふつふつと湧いてきていたが、無邪気に笑いかけながら尋ねてくる結花の顔を見るとその思いは消えていく。
「俺は…棒引きと1000m走と部活対抗リレーぐらいやった筈やで。じゃんけんで負けへんかったら1000m走出んでよかったんやけどなー…結花は何出るん?」
「私は棒引きと50m走とクラス対抗リレーと…部活対抗リレーだよ!テニス部には今年も負けないからね?あ〜、でも今年は金ちゃんがいるのか…謙也君対策だけじゃなくて金ちゃん対策も立てないといけないね」
ぶつぶつと対策とやらを立てている。
結花は陸上のことになると真剣になる
それぐらい走ることが好きで…。
普通にしてても可愛いけど、走ってる姿はもっと綺麗なんを知ってる。
そんな結花に惚れたんやから。
「その金ちゃん対策楽しみやな」
「あっと驚くような対策にするからね!」
笑い合い、気付くともう姫華の家の前に着いていた。
楽しい時間はほんまにあっという間に過ぎていく。
結花と居る時ほど実感する。
「送ってくれてありがとう!また、明日ね?」
「ほな、また明日」
もっと結花と一緒におりたい気持ちを込めてキスをする。
慣れていない結花は玄関の前できっと赤い顔して吃驚してると思ったら知らず知らずのうちに口元が緩んできた。
先ほどの嫉妬心がこういう行動に移させたのだろう。
明日、千歳に缶コーヒー代を返すついでに礼も言うとかなあかんな…。
口に指先をあてて帰路につく。
2011.9/2
Title by Aコース様