―局中法度書

一、士道ニ背キ間敷事
一、局ヲ脱スルヲ不許
一、勝手ニ金策致不可
一、勝手ニ訴訟取扱不可
一、私ノ闘争ヲ不許

右条々相背候者切腹申付ベク候也―


以前受け取った紙に記されている冷たい文字の羅列。
今は誰に向けてでもない、形だけの規則。
小さく小さく息を吐き出し、紙を小さく小さく折りたたみまた懐へ仕舞う。
見上げた空は ただ、ただ高すぎる。
手を伸ばそうが、届かない。
まるで貴方に届かないかのようで怖かった。

「守ってやるよ」

その一言が本当は怖かった。
聞きたくなかった。
誰よりも大切な私のたった一人の・・・。

「おーい、雪穂!早く来ないと土方さんにどやされるぜ?」

ふと視線を声の方へ向ければ、少し歳が下の平助と永倉さん道場から手を口に沿え呼んでいる姿が窺えた。
朝から会議とは何か問題でもあったのかと思索してみるも、流石に寝ている時に何かあられては私には思い当たる箇所は見つからない。

「何やってんのさ?早く来いよ。風邪引いちまうぞー」

私より年下から体調の心配されてしまうとはまだまだだと思う。
議題よりも私の調理時間を副長達にも考えてほしいものだ。

「なんでもないわよ!平助、そんなに心配してくれるなら朝餉の用意手伝ってね?」

平助の方へと歩みを進めつつ言い放ち、それをみてケラケラ笑っている永倉さんにも「永倉さんもだから!」とニッコリ微笑を向けるとあからさまに嫌そうな顔を浮かべ此方を見る彼らの背中をグイグイと押し進める。
フッと思い返せば私が呼ばれる議題は2つ程しか存在しない。
ヘマをした覚えは無いものの、脳裏には最悪の事態がちらついて離れない。
暫くすると平助が少し暗い声色で話し始めてくれた。

「そういえばさ、昨日の夜中にアレを見た奴を捕まえてさ…。どうするかはまだ・・・」

その一言は私の足を止めるには容易い言葉。


「見られたの?」


目を見開き立ち止まっていることに平助は気付かず歩みを進める。
雪穂の鼓動は不規則にもドクンッと脈打たせるには十分の威力があった。
確かに話し合うには十分の内容ではある。
でも、その場に私は必要であろうか…。もしかしたら、そのままの流れで仕事の話があるから呼ばれたのではないのだろうかっと頭に過ぎった。
兎に角、今ここで私が何かを考えていても始まりはしない。
すぐに頭を切り替えて私は足を進めた。
私が今 考えるべき事は、如何に早く朝餉の準備を終わらせる事ができるのか。その献立を考える事にしよう。


来るべき時、一人でほくそ笑む者がいた事に気付く人がこの時に居ただろうか・・・?



歩き出さないワケ
私はまだ歩き出せていなかった。



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