何度も何度も夢にみた光景。
一度手を染めてしまえば捕らわれる。

「クソッ…」

布団から起き上がり髪を掻き上げた。
以前に比べる事もなく、伸びた髪に少し切なさが込み上げる。
静かな暗闇。
人口の光はなく、あるのは月明かりのみ。今までこんなにも月が明るいとは思っても見なかった。
柔らかな月光。
その慈しみを含んだ光が自分を捉えて離さない。

月明かりが痛い。

全部見透かされている様で…。
俺の中を突き刺す。

「そうしないと生きていけなかった」

小さく呟き自分に言い聞かせ闇を晴らそうとしたが、月明かりで出来た影から笑い声が聞こえた。
耳を塞いでも聞こえる嫌な笑い声。

「何を綺麗事を言ってるんだ?人を殺して、かわりに俺が生き延びた。恋人や子供、家族がいるだろう奴を殺して」

嘲笑った声で俺に語り掛けてくる。
言われた内容はその通りだ。
斬ってきた人達にも家庭があっただろうに…。


俺が奪った


その事実に耐えられない。
けど、耐えれる様に何も感じなくなっていく日が来るかもしれないと思うと恐くて堪らない。

「重いだろ?俺が鍛錬して手に入れた力は奪うしか出来ない。平家のみんな、ましてや未来を護るなんて反吐がで「違うっ!!違う…」




昨夜も殆ど眠れなかった。
あの時から布団に座り一夜を過ごす。
そんな日がずっと続いている。
当然飯も喉をあまり通らないし、かおいろだって悪くなる一方だ。

「有川君…。」


未来が心配した目を向けているのだって知っていた。けど、俺は向き合う事が出来ないでいる。
あの目を、未来の汚れていない目を真っ直ぐに向けられては保てなくなりそうで逃げていた。

「はぁ〜…」

零れ落ちる溜息。
少し気晴らしにと縁側に腰を掛けて池を見ていたが、水面がキラキラ輝いている。
頬杖をしていた手を下げ、手を合せ組み頭をその上に乗せた。

「この力は奪う為だけじゃない。護る為だ。戻れない。」

俺は月の光が重い訳じゃない。と気づかされた。
全てが重いんだ。
輝くモノ全てが重いんだ。
汚れた俺を照らそうとするモノが。

呟いた声。言い聞かせた言葉。
声にしないとまた心の俺が否定する。
戻りたくて、戻りたくて足掻いていた。

やってきた事を見て見ぬ振りをしていたんだ。
望美を探している振りをしていたんだ。
何事もなかった様にまた笑う為だけに。

スッと何かが俺の中で落ち着いた。
だからといって今までの事を受け止めていない。
でも、目も背けてもいない。
いつまでも俺に付き纏うモノであることには変わらない。変えられない。

「…有川君。最近あんまりちゃんとごはん食べてなかったでしょ?」

静かな足音と朝飯を食べていた部屋を出る間際に聞こえた時の申し訳なさと心配を含んだ声色が後ろから寸分の狂いもなく発せられていた。
座ったまま顔だけを未来に向けるが目は顔を見るより、手に持っていた盆に乗せられているオニギリから逸らせない。
驚き目を開いている俺に少しずつ歩み寄って同じように隣へ座る未来。
「はい」と渡されたオニギリを受け取った。
柄にもなく気落ちしていた間は喉を通らなかった食べ物。
今になって腹が減ったと気付かされた。
しかしまぁよく今までちゃんと動いてこれたと思う。

「ありがとな、未来」

オニギリ片手に笑って礼を伝えると飛びっきりの笑顔を貰った。
そこでまた一つ気が付いた。
俺が今まで悩んでいたと同時に未来も悩んでいた事に。
当たり前の事なのに、俺は自分の事しか考えていなかった。

「なぁ、何があっても護るからな。平家の奴らも…。勿論、未来もだ」

小指を差し出し、未来の目を見つめた。
俺の意図を汲み取ったのかオズオズと差し出してくれた小指を絡めとる。


 日 常 の 崩 壊 

新しいモノで始めよう






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