気がつけば其処は知らないところ。

絶望さを感じさせるような状況。


なのに不安になせないよう笑顔で居てくれた貴方。

励ましてくれた貴方…。



でも時折見せる切なげな横顔。


私はただ見ているだけしか出来なくて
私の無力さを物語っていた。




何も出来なくてごめんね。

私よりも不安でしかたがないのに。



ごめんなさい。



生きる目的




目を覚ますと見知らぬ天上と優しく微笑んでいる女性の顔。
その女性と目が合うとニコリと笑んでくれた。


「還内府殿に御目覚めになったとお伝えください」

襖の近くにいた女性に言っているのを横目に起き上がり、覚醒しきっていない頭で周りの状況を把握しようと必死になっていた。
少しずつ頭の機能が働いていくに連れてあ然としてしまう。
襖の向こうを過ぎ行く人は皆、着物姿。
おまけに隣居る女性も尼さんみたいな着物姿。
そして、私が寝ているこの部屋は今ではめずらしい純日本的な独特の造り。
考えていくに連れて混乱してくる内容を少しでもいいから整理しようと頭を下げている私に隣の女性が話し掛けてくれた。


「見れば見るほど徳子に似ています。まるで、帰って来てくれたかのよう…。還内府殿といい、貴女といい清盛様もさぞ御喜びになられるでしょうね」

ニコリと微笑みながら嬉しそうで、少し悲しそうな声色で話してくれた。

が、

私は自分の耳を疑った…。
清盛?徳子?学校に行っていたら一度は聞く有名な名前。
1000年以上も前の歴史的人物と同姓同名で子供の名前まで同じだなんて余程の歴史好きだ
もし偶然でも出来すぎている話。
そう思い確認の為にもおそるおそる尋ねた



「あ…あの、清盛とは、平清盛…さんですよ・・ね?」

そうですよと返事を貰い、不思議そうな顔を返された。

わたしは違うと言ってほしかったのかもしれない。
聞いたことを凄く後悔している。


「そういえば、まだ貴女の名前を聞いてませんでしたね?私は平時子と申します、貴女は?」

女性の名前を聞いて鈍器で殴られた感覚に陥った…。
しかし、名乗ってくれたから私も名乗らないわけにはいかず、震えるであろう声を絞りだした。

「…柏崎 未来です」

もうこれ以上話を聞いたり、喋ったりはしたくなく頭を下げていると、襖の向こうから慌しい足音が近づいてきているのがわかった。足音はだんだんとこちらに向かってきて襖の前で止まり、勢いよく開いたと同時によく知った声が聞こえてきた。


「柏崎っ!!」

「有川…君…?」


よく知っているのに逆光で顔が見えないから名前を口にしないと不安だったのかもしれない…。
そして、部屋に入ってきた有川君は平安の貴族が着ていたような服を着ていた。
彼は先に知っているというのがわかる。
でも、見た目は変わってなく、知っている人がいるというだけでひどく安心できた。

有川君は時子さんの横に座った。
暫く黙っていた私たちに気を使ってくれたのか時子さん立ち上がりつつ口を開いた。


「募る話もあるでしょう…気分が落ち着きましたら清盛様のところへお越し下さいね?未来さん、無理だけはなさらないでね?」


そう言い残し時子さんは優しい眼差しを向け部屋を去っていった。


少しして有川君が話してくれた事。

私が3日間も眠っていた事。
春日さんと弟さんが見つかっていない事。
信じられない事に此処は私たちがいた時代と違う事
今が平安時代末期という事
平家の屋敷にいる事
有川君は重盛に似ていて、私は徳子に似ているという事

余りにも多すぎて頭がイカれてしまいそうだ。
そんな私の心情が伝わってしまったのか「大丈夫か?」と心配の声に頷きつつ一拍呼吸を置いて有川君から紡がれた言葉。

得体のしれない私たちを屋敷に置いてくれた清盛さんに何かしたいという有川君の気持ちと、決意に満ちた眼差し。

まだ状況を飲み込むにはもう少し時間がいるけれど、清盛さんたちになにかしたいという気持ちは私も同じだった。


「俺はこれから剣術を教えてもらうつもりだ。あ〜…頼りないとは思うけど、水城ぐらい護れるようにな。柏崎はどうする?」


決意の篭もった真剣な眼差しのまま問いかけられたときには私も決意していた。


「私は春日さんたちの手掛かりを探す。あと…もしもの為に自分の身は守れるように何かを学びたい。あっ!有川君が頼りないとかじゃないからね!」


苦笑いを浮かべた有川君に慌てた。
言葉足らずな私の悪い癖。


「わかってるよ、だけど柏崎が剣を使うに俺は賛成できない。…まぁ、曲げる気はないみたいなのはわかったけど」


まるで望美みたいだと懐かしそうに笑った有川君を見て、本当に春日さんが大切なんだと思った。

「さて、待たせ過ぎの清盛のとこへ行くか、未来っ!」


有川君は立ち上がりスッと手を差し出した
私はその手をとり、名前で呼ばれて赤くなった顔を俯かせ部屋を後にした…。



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当サイトでの徳子様は亡くなられております。
故に、安徳天皇は顔を覚えておりません。



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