少しだけ、 少しだけでいいのです。 私に力を御与え下さい。 大切な者を守れる力を御与え下さい。
目が覚めてもあの頃には戻れない。 とても寂しく思うのです。 皆でわいわい騒いで、土方さんにどやされて、山南さんにちくちく言葉を投げられて、近藤さんが笑いながら勘違いしてそれに皆で笑っていたあの頃をもう一度…
「そんな顔してんじゃねーよ。いい女が台無しだろ?」
苦笑いを浮かべた原田さんに頭を撫でられながら言われてしまった。 そんな事を言わせる為に私はいるんじゃない。 今の私ではいけない。
「どんな顔してました?」
明るく言わないと。 本音を、心を閉ざすのなんて私には反吐が出るくらいに容易に出来る事。 悲しみなんで今更でしょう? この私には似つかわしくない。 くるりと振り返り原田さんに体ごと向き合った。 ふと見上げた原田さんの顔は余りにも悲痛に歪んでいる。
「も〜!私より原田さんこそなんて顔してるんですか?折角のいい男が台無しですよ!」
言ってやった。 私はこうでなくてはいけない。 皆が沈んでいるんだから私ぐらいは明るくしなければ。 誰も逝なくなっていないのに葬儀をしている空気に包まれてしまう。
「…だな。妹分に言われちまうとは」
そう言っている原田さんの顔は先ほどより悲痛な表情は幾分か和らいでいたけれどまだ痛そうに微笑んでいる。 この人も隠すのが上手い人だから。 でも、不器用な隠し方をする人でもある。
「妹は強いのです。だからお兄様に心配かけませんよ」
頭に乗せられていた手をとり両手で包み、もう一度大丈夫と呟いた。 二度目は自分に言い聞かせる様に。
「平助にも考えがあったんだよ。平助は真面目な子だもの。…ね?」
握っている手を強く握りなおし俺に笑いかける。 昔と同じ呼び名で、懐かしいあの頃のように笑いかけるから雪までもが消えてしまう錯覚に陥ってしまう。
妹分と言うことで誤魔化してきた気持ち。 里沙まで傍から居なくなってしまったらどうすればいい? 今更、手を離したくないと掴んでもさらりと抜けられてしまいそうだ。
触 れ ら れ ぬ 熱
2011.09/02 掲載 平助脱退すぐぐらいのイメージで…
|