秘密のメッセージ


 朝起きれば、目の前で大好きなやつがすやすや眠っていて、悪戯に名前を呼んでやると寝ぼけながら返事をする。そしてむにゃむにゃ言って自分の体に足を絡めてくる彼の頭を気ままに撫でる。そんな時、俺は幸せなんだな、って実感するんだ。

 すっごくかっこよくて、すっごく可愛い自慢の恋人。でもそれは本人の前では言わない。だって、かっこいいと言ったら、翔ちゃんの方がかっこいいです、って返されるし、可愛いと言ったら、そんなこと言う翔ちゃんが可愛いよ、って抱きついてくるだろう。だから言わない。あいつが起きてる時には。

 でも今はいいんだ。彼はきっと寝ぼけなまこで憶えてないから、聞こえてないから。

「かっこよくて」
「んー、あっ、ピヨちゃん逃げちゃだめー」
「可愛い」
「ラーメンのお池に入っちゃう…」
「那月が大好き」

 噛み合わない会話が面白くって、ついつい抑えた笑いを耐えきれなくて喉が鳴った。

「どんな夢見てんだよ」

 綻ぶ目元をそのままに彼の髪を撫でた。それだけでふわっと那月の表情が和らぐのがたまらない。

「……しょおちゃんー」

 舌っ足らずな口調で名前を呼ばれる。

「はいはい、ここにいますよ」

 返事をすると、熟睡しているはずの彼がへにゃっと笑った。

「すきすき、だいすきです」

 ……これは反則だと思う。不意打ちが悔しかったから、ふわふわのほっぺたをつねってやった。

「ふにゃー?」

 パチリ。寝ぼけで焦点のあっていない瞳と視線が絡まる。

「あっ、しょうちゃんだぁ」

 寝起き特有の掠れた甘い声がわたがしのように鼓膜にまとわりついた。

「おはよ」

 さ、秘密の時間はおしまい。でもさっきの寝言が嬉しかったから、今日は少し甘えてみようかな、なーんて。

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