陽だまりのようなあたたかさで


 翔ちゃんはとても優しい。だからその陽だまりのようなあたたかさについ甘えてしまいたくなるんです。

 僕が自主練習を終えて寮の部屋に戻ろうとしたとき、たまたま翔ちゃんを部屋の前で見かけました。カバンの中をゴソゴソとかき回している翔ちゃんは、おそらく寮の鍵を探しているんでしょう。

 僕は思いがけず翔ちゃんに会えたことが嬉しくて、そのままその背中に飛びつくように走っていって、あたたかい彼をぎゅ〜っと抱きしめました。

「翔ちゃんーっ!大好きのぎゅ〜」
「うわっ、那月?おい、離れろおおお!」

 ふふふっ、じたばたと僕の腕の中で暴れる翔ちゃんはうさぎさんみたいで、とーっても可愛いんですよ〜。

 しばらくぎゅーってしていたら、あれ、可愛い声が聞こえなくなっちゃった?どうしてでしょう。

 僕は、少し体の隙間を空けて、翔ちゃんの顔を覗き込んでみた。

「翔ちゃんどうしたの?」
「どうしたの?…じゃねーよ。死ぬかと思った」

 覗き込んだ翔ちゃんの顔は、青白くてとても気分が悪そうです。

「えぇ、翔ちゃん死んじゃだめ!可愛い翔ちゃんが死んじゃうなんて。僕、耐えられません…」

 翔ちゃんがいなくなったことを考えると少し瞳がうるうるしてきた。

「何回も可愛い言うな!つか死なねーよっ!」

 僕の心配をよそに、翔ちゃんの言葉はいつものように元気いっぱいです。それにすぐに頬に赤みも差してきたみたい。とりあえず、体調が悪くないようで安心しました。

「…ったく、お前は」

 翔ちゃんはやれやれというように、頭を抱えている。きっと疲れてるんだろうな。昨日の晩も遅くまでお勉強頑張ってたもんね。

 翔ちゃんはね、すっごく努力家さんなんですよ。その小さな体に、強くて大きな心を持っている、僕の大好きでとても大切なひと。

「ねぇねぇ、翔ちゃん。翔ちゃんも僕をぎゅってしてください」

 翔ちゃんお願い、と言って首をかしげてみる。

「やだよ、恥ずかしい」
「誰も見てないですよ。ねぇ、お願い〜」

 翔ちゃんは太陽みたいに、優しくてあたたかい人だから、きっとこのお願いを叶えてくれる。

 彼に構って欲しくて、僕は小さな小さなわがままを繰り返してしまう。その度に翔ちゃんは、しゃーねぇな、今日だけだぞ、なんて言いながら僕の願いを叶えてくれるんです。

「ちょっとだけだぞ」
「わあい!」

 ほら、翔ちゃんはとっても優しいでしょ。

 広げられた腕に飛び込めば、控えめに背中に回された腕で、ぎゅっと抱き締められる。翔ちゃんの髪からは僕とお揃いのシャンプーの香りがします。けれどもそれは同じ匂いなはずなのに、僕のより甘い香りがするのは気のせいでしょうか。翔ちゃんの肌からは、まるでミルクのような柔らかな香りがするんです。

「はい、おしまい。さっさと部屋入るぞ」
「ふふふっ、翔ちゃん大好き〜!」

 鍵を開ける翔ちゃんに、じゃれつくように後ろから抱きつき、そしてその髪に顔をうずめて、その見た目より繊細な肌触りを堪能した。

「お前はくっつき虫かよ」
「えへへ、翔ちゃん限定のくっつき虫さんですよ」
「とにかく一回離れろ。ほら」

 まとわりつく僕を剥がし、背中をポンっと叩く。翔ちゃんってば、なんだかお兄ちゃんみたい。

「は〜いっ!」

 僕は元気良く返事をして部屋に入った。だぁいすき!って心の中で何回も言いながら。
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