#5



 その日の朝、黒尾はやけに騒がしい小鳥達の合唱で目を覚ました。腕の中ではいつものように恋人が寝息を立てている。今朝のことは全て夢だったのか。そう思った。やけにリアリティーがある夢だったな、と思いながら、時間を見ようとしてスマホを探す。ようやく見つけたそれの画面には、アラームが鳴るはずの五分前の時間が表示されていて、日付けはもちろん夢の中と同じままだった。その時、枕元にあったそれの裏側に正方形の付箋が張り付いてあることに気が付いた。それをよくよく見てみると、見知った筆跡で何やら文章が書いてあるようだった。

 ――八年後、同じ場所で待ってる。

 右端には黒で塗りつぶされた落書きがある。
「もしかしてクロネコか?」
 思わずふっと笑い声を立ててしまった。全く下手くそにもほどがある。これを書いた犯人はどう考えたって、あの彼だ。
「んん、鉄朗?」
 黒尾の声に驚いたのか、夜久も目を覚ましたようだ。
 黒尾は、ごしごしと目を擦って眠たそうに擦り寄ってくる彼に向かって言った。
「衛輔、お待たせ」
 夜久は目をぱちくりとさせて不思議そうな顔をしているが、やがて黒尾が見ていた紙切れを見つけて、大きく目を見開いた。
「……待たせすぎだ、この野郎」
 尖らせた唇にそっと口付けを贈れば、ふわりと表情が和らいだ。
「ずっとずっと好きだった」
「俺のほうが先に鉄朗を見つけたんだからな」
「そうだな、見つけてくれてありがとう。
 ところで、モリスケくんは僕を見つけた時のお話をしてくれるんデショウカ?」
 にやりと笑って耳元へ囁けば、教えねぇよとそっぽを向かれる。
 だがしかし、そこまで言うのならこちらも引けない。
 黒尾はどうやって喋ってもらおうかと思案しつつ、口端をつり上げた。




 それでは、共に初恋の答え合わせをいたしましょうか?

【end】


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