#3 通じ合った気持ち


 黒尾から自然とつながれた手がくすぐったい。ぽつぽつとある街灯が夜道を照らし、上弦の月が空に浮かんでいた。
「ねぇ、いつから俺が黒尾のこと好きって感づいてたのさ」
 一生懸命隠していたつもりなのに黒尾には全てお見通してであったようだ。色恋沙汰に疎そうな彼にバレたのならば、自分は相当わかりやすかったのかもしれないと少し恐ろしくもあった。
「いつからかな」
 ニヤリと笑う黒尾の考えていることはやはりよくわからない。
「じゃあいつから俺のこと好きなの?」
 質問を変えてみる。そうやって彼自身のことを尋ねれば、わかりやすいほどにつないだ指が飛び跳ねた。そんな素直なところも好きだと思った。
「……言いたくない」
 高校で夜久が彼に出会うその前に、黒尾が恋に落ちていたなんて、そんなおとぎ話のような出来事を夜久は知らない。
「あーあ、どうしよ」
「何が」
 好きだ、って言えることがこんなにも幸せだなんて思わなかったんだ。
「俺、お前のことすげぇ好きだわ」
 きゅっと黒尾の身体に力が入って、自然とつないだ手もしっかりと握られる。
「そんな可愛いことばっか言われると、ムラムラしてくるんだけど」
「わざとだって言ったら?」
「襲う」
 間髪を入れずにそんな言葉が返ってきて、夜久は思わずその尻に蹴りを入れる。
「いった」
「今のは黒尾が悪い。……まぁわざとだけどね」
 黒尾が足を止めて夜久を見つめると、ぱたぱたと真っ黒な睫毛が羽ばたく。少し上にある彼の顔を見上げて、心の中で好きだよと伝えてみた。
「そういうのほんとヤメロって」
「なんでだよ!」
 食いつくように顔を近づけたら、黒尾が珍しく目をそらす。どうやら照れているらしいのだが、顔をそらされてしまっていてその顔を見れないのが残念だ。
 黒尾は夜久に背を向けて大きく息を吸うと、何かを決意したかのように口を開いた。
「知らねぇぞ。優しくできないかもしれないし」
 彼はそう言うけれど、黒尾のことはよく知っている。だってずっと見てきたのだから。
「嘘。黒尾は優しい」
 見開かれた琥珀色の瞳が闇夜に光る。そしてそれは軽く眇められ、するりと夜に溶けていった。
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