恋とはキャラメルのようなものです


「旭さん、あの……」

 珍しく歯切れ悪く切り出した彼。そんな小さな恋人の願いはびっくりするほど可愛らしいものだった。

「わからないところあったら、遠慮なく声掛けてな?」
「はい!」
 大きく頷いて、再び目の前のテキストとにらめっこを始める。それを横目に旭も机の上に英語の参考書を広げた。
 世間ではGWが終わり、新しいクラスにもようやく慣れ始めたころ。だがしかし、ここ烏野高校の校長はなにを思ったのか、今まで中間・期末と二つに分けていた定期テストを、三つに分けなおし、五月中旬に第一中間テストをもうけると言い放った。まぁ、旭の記憶が正しければ、始業式でもその話はしていたはずだが、周りの予想に外れず、校長の話を聞いているはずもなかった西谷や田中などの面々は、GW合宿を終えてから知った新事実に対してひどく焦ることになったのだ。あの二人が成績の良い縁下に頼みこんで、その日のうちから勉強を開始したくらいなのだから、二人の焦りようは尋常じゃなかったことが伝わる。
「それにしても一・二年だけなんてなぁ。俺たちのときにはなかったのに」
 短いひげを指先に感じつつ、うーんと唸る旭。
「なんか再来年から徐々にカリキュラムを変えるらしく、その移行期間らしいっすよ」
 そう。この制度は、今年初めて行われることとなる。学生たちが揃ってつまづきがちな期末テストの範囲を減らすことが主な目的であるらしいが、新学期が始まってすぐ一週間の謹慎を言い渡されていた西谷にとっては、夏休みの補修地獄へのカウントダウンを言い渡されたようなものだった。
 第一中間試験の結果は、第二中間テストそれから期末テスト、そしてゆくゆくは夏休みの補講にも影響を及ぼす。夏休みに補講となれば、部活動にも支障が出ることはほぼ間違いないだろう。
 だからこそ、まだ基本的な事項しか習っていないこの時期に少しでも良い点を取って、来たるべきその後に備える必要があることは言うまででもないし、目の前の彼も同じくそのように考えたはずだ。
 旭さんも受験生なのにすみません、と頭を下げる彼が、そんなことまで気にしてくれていたとは思わなかった。むしろ受験とかには無関心だと思っていたから。これが自分のことだからそこまで気を回してくれたのかな? と思うと、ほっこりとあたたかい気持ちになったのはつい昨日のことだ。そして泊りがけで旭の家に西谷がやってきたのが、ほんの数時間前のことである。
 それから黙々と問題を解き続ける二人の間に会話はなくなった。何度かシャーペンが止まった西谷は、そのたびにわからないところを旭に尋ねたが、ヒントを出してやるとすぐに手が動き始めた。縁下らと部活後に勉強していた成果は確かに出ているらしい。この調子で集中力が持てば、一週間後の試験もおそらく大丈夫だ。
 三年生である旭は試験はないものの、やることはたくさんある。だからこそ必死になって勉強する西谷と並んで勉強を始めたのだが、自分の恋人からは癒しオーラが出ているのだろうか。それとも身体から自分をやる気にさせる成分を発しているのだろうか。真実は定かではないが、自分のノルマをいつになく速いスピードで達成した旭は、同じ体勢を取りっぱなしにしていたせいで強ばった身体を動かすため、うーんと大きく伸びをした。それでも顔を上げずにノートにかじりついている西谷の姿は、まるで小動物のようだ。そんなこと言ったら、その丈夫な歯でかぷっと噛まれてしまうことは目に見えているから絶対に言わないけれど。
 そんな彼をやっぱり好きだなぁ、なんて思いながら観察していると、集中している彼の隣に置いてあるグラスの中身がほとんど残っていないことに気がついた。
 新しい麦茶でも持ってくるか、と旭は二人分のグラスを手に取り、立ち上がる。それでも西谷は必死で筆を走らせていた。その姿がほんの少し淋しいとともに、可愛らしく見えて仕方なかった。
 普段の騒がしい様子からは想像できないくらい静かなプレーをする彼は、試合中の集中力も半端ではない。それに加えて周りを見る能力も併せ持っているのだから、この小さな身体の中には無限の可能性を孕んでいるのではないかと思ってしまう。そしてきっとそれは過信ではない。
 この集中力は一朝一夕で身につくものではない。幼いころから、思う存分好きな遊びをして、伸び伸びと育てられたのだろう。写真でしか出会ったことのない幼い日の彼を思い浮かべ、旭はそっと笑みを零す。
 勉強に集中しているらしい彼にはわざと声を掛けないで、自室を後にした。両手に持ったグラスをうっかり落としてしまわないように、ゆっくりと階段を降り、リビングへと向かった。

「あっ、旭さんありがとうございます」
 旭が麦茶を注ぎなおして部屋に戻ると、その音に気がついたらしい西谷がぱっと顔を上げた。
 いいよ、とはにかむと、嬉しそうな表情のままじっと見つめてくる。少し照れくさくなって目線をそらしても、頬に焦げ付くような視線を感じた。かたんと小さな音を立てて、グラスをテーブルに置いた。ごく自然な風を装って彼をのぞき見ると、大きな栗色の瞳と目が合った。
 じっと見つめ合って、恋人特有の甘ったるい時間が流れる。意外にもその空気を壊したのは、西谷のほうだった。
「よっし。じゃあ一回休憩しよっかな。旭さんもちょっと休みます?」
「あっ、うん。そうだね、休憩しようかな」
 少し残念なような、少しほっとしたような気持ちになった。恋人らしいことをできるのが本望であることは否定しないが、何せ今日は勉強のためにわざわざ来てくれたのだ。手を出すわけにはいかないな、なんて考えていた。
「ちょっと充電〜」
 珍しく甘えんぼうモードになった西谷が、立膝をついたまま、トテトテと旭の隣にやってくる。そして横にピタリと身体を寄せたかと思えば、すりすりと肩に頬を擦り寄せてきた。甘えただな? なんて茶化さない。その代わり、そっと身体を抱き寄せて、その頭を撫でた。満足そうに目元を緩めている彼は、今にもゴロゴロと喉を鳴らしそうだ。
 背の低い西谷は、よく他人に頭を撫でられている。だけれども、そういうときには決まって、その手をはねのけ、吠えるようにぎゃんぎゃんと騒ぎ立てるのだ。しかしながら、自分が撫でることは許されるらしい。それが嬉しくないと言えば大嘘になる。
 その熱い性格とは裏腹に少し低めの体温とか、自分よりわずかに速い鼓動だとか、そんなものも含めて全部全部大好きだ。
「旭さん、好きっす」
 そんな旭の心情を汲み取ったかのように、西谷が言う。決して高い声ではないのに、それはキャラメルを纏ったかのような甘さを含んでいた。
 いつも気持ちを伝えてくれるのは彼からだ。こんなにも心の中では好きだ、好きだと煩いほどに叫んでいるのに、それを声に出すことはうまくできなかった。現にそのことを西谷もわかっているのだろう。返事を待つ様子もなく、あぐらをかいた旭の膝に頭を預けてきた。
「俺も好きだよ」
 今なら部屋の外、開け放った窓から聞こえる蝉の鳴き声で消されるかも、なんてずるいことを考えながら小さな声でつぶやいた。けれども肩を揺らして大きく反応して見せた彼には、ちゃんと聞こえてしまったようだ。こちらを見つめるつぶらな瞳がガツンと心を揺さぶった。
「旭さん、しましょ?」
 勢いよく頭を起こした西谷が詰め寄るように顔を近づける。
「え、え、でも勉強……」
「わかってます! ……でも一回だけ」
 だめっすか? と首を傾げられて、気がつけば、一回だけだからな、と自分の口が返事をしていた。




 ーー暑い。暑い。暑い。
 高校生らしからぬ淫らな声が、万が一にでもご近所さまに漏れてしまわないように、しっかりと閉めなおした窓のせいで、部屋はひどく暑苦しい。一生懸命首を振っている扇風機の頑張りも、部屋の空気が熱いままでは、全て徒労に終わっている。
「なぁ、」
 湿った吐息混じりの声で問いかける。ささやかな疑問をまんまるい瞳に映してこちらを見上げる彼は、その頬を火照らす熱と相合わさってなんとも綺麗だ。
「西谷の好きなところ三つ言ってもいい?」
 きょとんという言葉が似合いそうな表情をされる。そんな彼を無視して、目尻に唇を乗せた。
「一つ目。まっすぐで、いつも前を見ているその可愛らしい目が好き」
 くすぐったそうに目を閉じた彼のまぶたに、ちゅっと音を立ててキスをした。可愛らしいなんて言ったら拗ねちゃうかな、と思ったけれど、今回はお咎めなしらしい。
 小さな顔に対して、大きくて印象的な猫目。わずかに吊りあがったその目元は、彼の気の強さを表しているようで、大好きだ。嬉しいときはきゅっと細くなり、甘えているときは目尻が下がって、ほんの少し垂れ目っぽくなる。試合中は獲物を狙う烏のようにぎらぎらと輝く静かな瞳。けれども、試合が終わり、一歩コートから出れば、それは年相応な男の子のものとなり、楽しげにキラキラと瞬く。そして今。それはとろりと蕩けはじめそうなほど柔らかい色味をたたえ、一心にこちらを見つめている。自分の心の中で燃え上がる炎が、彼の瞳の色さえも溶かしてしまったのだろうか。
 そっと唇を離せば、柔らかな弧を描いている目元が追ってくる。熱情を孕んだ視線を交わして、しっとりと汗ばんだ胸元に鼻を擦り寄せた。
「ははっ、犬みたい」
 鼻先を掠める香りが心地よくてそんなことを繰り返していたら、可愛らしくて憎たらしい口がケラケラと笑い声をあげる。だから、仕返しに色素の薄い肌にひどく映えるその尖りを唇で摘んでやった。
「……あっ」
 金平糖のように小さくて甘い声が降ってくる。してやったりと彼を見上げると、猫の瞳が悔しそうに吊りあがった。
「……俺が犬なら、西谷は猫だな」
 目の前の飾りを堪能しながらつぶやいてみたものの、官能的に眉を寄せ、身をよじる彼の耳には届いていなかったようだ。
 首を持ち上げている彼の熱にはまだ気がつかないふりをして、左右の蕾のちょうど中央を舌であやしてやる。身体の筋に沿って唇を降ろしていけば、その先に待っている高ぶりを知っている西谷は、焦れったそうにわずかに腰を揺らした。本人は無意識なようだが、こちらとしては誘われているようにしか思えない。指が敏感な部分を通るたび、ぴくりと身体を震わせているのに、それを必死で隠そうとする姿は、なんとも健気だ。
 ローションをどこに置いたかな、と室内を見渡した旭の目に、いつも使っている全身鏡が映った。不意にロクでもないことを思いついて、ニヤリと意地悪く口端が上がりそうになるが、ばれないように俯いて隠した。
 探していたローションを枕元で見つけた旭は、西谷の身体がうつ伏せになるよう誘導しつつ、その指にぬるつくローションを絡ませる。
「腰、上げられる?」
 この後のことも考えて、なるべく負担のかからない体勢のほうが良いだろう。おとなしくこちらに背を向けた西谷の腰は、今にも抜けてしまいそうなほど力が入っていなかった。
「そんなに良かった?」
 少しからかうような口調で言うと、眦(まなじり)を朱色に染めた彼に睨まれた。後ろを振り向いてこちらを見上げられると、うん、なかなかにくるものがある。これはハマるかもしれない、と旭が不穏な笑みを浮かべたことを西谷は知らない。
 たっぷりと濡らした中指をゆっくり差し込んだ。決して細くはない旭の指がそこに吸い込まれていく様は、何度見ても慣れることはなかった。自分なら恐怖で失神するであろう。それに対して西谷の内壁が物足りなさそうに指に絡まりついてくる。んんぅ、と鳴くような声が漏れているが、それに見えるは苦痛ではなく、快感の色だった。
 早く、と熱に浮かされたような声を絞り出す彼に、もう少しだから待って、と言ってそのうなじを唇でついばむ。ちゅっちゅっと繰り返すと同時に、奥で蠢く指を増やした。唇に触れた汗は少し塩辛かった。首筋へとそれが流れるたび、舌で掬い上げた。
「挿れても、いい……っ?」
 真っ白な肩に噛みついて歯形を残したくなるような衝動をやっとの思いで飲み込んで、なるべく優しい声で問いかけた。勿論、首を横に振るわけもない西谷は、壊れた人形のように何度も頷いた。
 旭の熱は捌くまでもなく、天を向いていた。それをそのまま後孔にあてがいつつ、なめらかな尻たぶにも手のひらをすべらせた。真っ白なそこを汚しているような気分がなんとも背徳感を誘う。
「入るからゆっくり息をするんだよ」
 聞こえているかはわからないが、いつものようにそう言って、旭は自分の熱をその中に埋め込んだ。きしむどころか、くちゅくちゅと粘りっけのある音を立てて、それは根本まできちんと飲み込まれた。広げられた輪がビクビクと収縮しているのが、とても可愛らしい。さすがに焦らしすぎたか、と思い、謝るかわりにその淵を指で撫でた。
「んっ」
 きゅっと締め付けられる感覚に、思わず漏れた旭の吐息。西谷がぴくりと反応するのがよくわかる。つながった場所からドクドクと互いの鼓動が響き合った。久しぶりの行為に緊張しているのか、西谷の身体がいつもより強ばっているのがわかる。旭はその強ばりをほぐすように優しい声でその耳元に囁いた。
「前、見てごらん」
 穏やかな声色の旭に言われて、西谷が見ないわけがない。西谷は何も疑わず俯いていた顔をゆっくり上げた。
「……っっ」
 西谷が息を飲んだ。この体勢だとベッドの奥に置いてある鏡に映った自分の姿がよく見えるだろう。ベッドに座りながらでも髪が結べるようにと考えて、この場所に鏡を置いた昔の自分を誉めてあげたい。
 ぱっと目をそらし、シーツに顔を埋めてしまったところを見ると、効果は抜群だったようだ。
「西谷、ちゃんと見ててね。俺が好きなお前の姿」
 左手で彼の顎を持ち上げ、鏡ごしに視線を交わす。発情した猫のように瞳を潤ませる西谷。視線を交わした瞬間、旭のものが大きく脈打って、その質量を増す。それとほぼ同時に、西谷の中もぎゅっときつく締まった。
 ーー壊したい。その理性を壊して、自分だけに縋りついてほしい。
 唐突に脳裏をよぎった本能に、旭は半分だけその心を預けてみた。




 生々しく濡れた音が外界と遮断された部屋に響き、その音色に荒い呼吸が被さり、さらには時折とびっきりの甘い嬌声が加わる。先ほどからあえて触れずにいた西谷の象徴は、ふるふると震え、今にもその身を弾けさせようとしていた。絶え間なく鈴口から蜜が溢れ出す。限界なのか、西谷がそこに自らの手を伸ばそうとしたが、勿論それは許さなかった。
 四つん這いになっていた彼を膝に乗せ、後ろから顎を掬って唇を奪った。首を捻る彼は少し辛そうな姿勢だが、身体が柔らかいことも幸いして、何度も唾液を交わし合うことが可能だった。
「はぁ、旭さ……ぁん」
 呼吸の合間に閉じたまぶたを震わせて、こちらの名を呼ぶ。ついさっきまで鏡ごしに見ていたそこに、旭は思う存分かぶりついた。唾液で西谷の唇が妖しく光る。口端から零れたそれを拭うと、もう一度激しい律動を始めた。
「あ、ぁぁ、っぁぁあ!」
 西谷の体重で奥にのめりこみ、先よりもさらに深い部分を突く旭のそれ。内臓を抉るような動きに西谷がうっと声を上げるが、変わらず小さな口から蜜を零しているのが鏡に映っていた。
 焦らして、焦らして。自分を求めて身体を震わせるすがたは美しい。彼の腰が淫乱に揺れて、欲望を吐き出そうとするたびに、まだだよ? と囁いてその熱を指のリングで押さえつけた。いつも以上に敏感になっているらしい彼の瞳の奥は、そのたびに苦しそうな表情で旭の熱を欲した。手の中で小刻みに震えるそれが愛おしかった。
「二つ目」
 旭が小さくつぶやくと、その吐息を耳に直接感じた西谷が、活きの良い魚のように身体を跳ね上げる。
「へ?」
「西谷の好きなところは、いつでも一生懸命で、健気なところ」
 耳にかぶりつけば、ひゃぁ! なんて可愛らしい声が聞こえた。耳に舌を差し込み、わざとぴちゃぴちゃと音を立てて、そこを責めた。
「いやぁ、そこ……っ、ゾクゾクする……ッ」
 きゅう、きゅうと西谷が奥を締める。
「ほら、ちゃんと見てて」
 鏡ごしに視線を送れば、おずおずと面が上がる。ガラスの世界でキャラメル色をした二つの瞳が重ね合わさった瞬間、旭は話をしている間は止めていた動きをいきなり再開した。柔らかい内壁を硬くなった肉棒が遠慮なく擦りあげる。
「あぁぁぁあああ!!!」
 ついに耐えきれなかったのか、西谷が一際甲高い悲鳴を上げて、ピュル、ピュルルと断続的に精液を腹へと吐き出した。その甘ったるい声に誘われるように、旭も背中を丸め、その中に全てを注ぎ込んだ。



「ねぇ、旭さん」
 旭が脱いだTシャツを着ていると、西谷がベッドに寝ころんだまま、こちらを見上げる。下着だけ身につけたその姿は、目に毒であることは言うまでもない。
「なに、西谷?」
 Tシャツから顔を出して、返事をする。それだけで嬉しそうにニカッと笑う彼に、自分が愛されてると自惚れても良いだろうか。誰に尋ねるもなく、旭は思った。
 ちょいちょい、と手招きされて、その横に寝転がる。時計の針は、おやつの時間を少し過ぎたあたり。もう少しゆっくりしていても大丈夫、と自分に言い聞かせて、旭は西谷の柔らかい髪を撫でつけた。
「三つ目、まだ聞いてない」
 あぁ、と旭は笑う。そんな旭に西谷は恥ずかしそうに視線を彷徨わせた。
「それはな」
 ーーこうして素直に甘えてくれるところだよ。
 その言葉を飲み込んで、秘密! と彼の唇に人差し指を添えた。
「なにそれ、ズルいっすよ!」
「西谷がテストで赤点取らなかったら教えてあげるよ」
 テストが終わったら、またその身体にたくさんの好きを伝えよう。一度や二度では伝えきれないから。
 それに、と言葉を続けると、西谷が不思議そうに首を傾けた。
「今日の西谷、一段と可愛かったから試験後も楽しみにしてるな」
 それを聞いて、旭さんなんて嫌いだ! と頬を真っ赤にした西谷はむくれるが、その顔を押し当てる先は旭の胸元なのだから、なんともいじらしいことこの上ない。
 好きだ、好きだと溢れる思いを言葉にできずにぎゅっと抱き締めると「嘘。旭さん、大好きです」と彼の穏やかな声が聞こえた。

【了】

- ナノ -