#2


 今日、旭さんに告白された。

 別に返事を求められたわけでなかった。ただ、好きだと伝えられただけだった。
 彼から恋愛対象とされていたことには驚いたが、正直に言うと全く嫌悪感はなかった。むしろ、尊敬する彼から好意を向けられていたということが嬉しかった。
 彼は一言、お前が好きなんだ、とだけ言うと、そのまま自分に背を向けた。追いかけるべきか悩んだけれども、自分は彼の気持ちに今すぐ応えられるわけじゃなかったから、夕暮れに沈んでいく大きな背中を追いかけることはできなかった。
 鼓動はせわしく脈打っている。だが、それが恋愛感情によるものなのかわからなかったし、誰も教えてくれるひとはいなかった。名前と同じ夕暮れに訊ねてみたが、それはにっこりと微笑みを返すだけだった。



「なぁ」
 次の日、朝練の片付けをしながら、西谷は何気ない風を装って縁下に声を掛けた。
「どうした?」
「縁下はさ、人を好きになったことある?」
 え、と分かりやすいほどに彼は動揺する。きっとこの手の話題はあまり得意ではないのだろう。けれども田中にこんなことを聞いた日には、好きなひとがいるのか! と質問責めに遭うだろうから、気兼ねなく頼れるのは彼しかいなかった。
「まぁ、人並みには……」
「好きってどんな気持ち?」
「ドキドキしたり、とか?」
 確かに旭さんのバレーをする姿は文句無しにかっこいいのでドキドキする。しかしこれはやはり尊敬の気持ちなのでは、と思い直した。
「他には?」
「毎日でも会いたいなぁ、とか」
 毎日会えるのが当たり前だったからそんなこと考えてもみなかった。これもわからない。
「あとは!!」
 頼む、と手を合わせて彼を見上げると、彼は少し困ったように視線を彷徨わせた。
「…キスしたいとかかなぁ。あ、今のなし!」
 縁下が照れたように両手をぶんぶんと振り回す。けれども西谷の視界にもうその姿は入っていなかった。
「それだ!」
「え、」
 不思議そうな顔をする彼にお礼を言って、さぁどのタイミングで切り出そうかとさっそく脳内会議を開始した。

 そして。
「旭さん!ちょっといいっすか!」
 思い立ったが吉日。西谷はその日の昼休み、パンの入った袋を持って二年のクラスに現れた。


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