#1

「俺、お前のことが好きなんだ」

――俺は西谷に告白した。

 別に付き合いたいとか欲が出てしまったわけでもないし、この恋が成就するとも思っていなかった。ただこの気持ちを知ってほしかった。ずっと西谷だけを見てきたんだよ、って伝えたかったのだ。
 出逢いは今から三年前のこと。今になって思い返してみると、あれは一目惚れだったのかもしれない。

 とある公式大会。すでに中学のバレー部を引退していた旭は、同じバレー部だった同級生たちと観客席にいた。強豪校との試合。旭たちの応援にも熱が入り、会場の熱気も最高潮になっていた。
 そして、相手方のコートに彼はいた。一人だけ色の違うユニフォーム。彼はリベロだった。
 後輩の応援に来たはずなのに、気が付けば視線はその名前も知らない彼のことを追っていて、周りの選手たちより、ひとまわりもふたまわりも小さな彼に釘付けになっていた。
 彼はボールに吸い込まれるようにすべりこむ。あまりにも綺麗にボールが手に当たるので、まるでボールが彼に吸い込まれているようにも見えた。誰よりも速くコートを駆け回り、的確にセッターにボールを返す。安定したレシーブ。ボールの落下点を見極める能力。彼はどう見ても天才だった。相手コートからの乱れた暴れ球も、彼の腕に触れれば、すべて借りてきた猫のようにおとなしくなるのだ。
 試合終了のホイッスルが鳴ったあとも、鼓動はうるさいほどに速いままで、高揚する気持ちをいつまでも鎮められなかった。
 彼はその大会でベストリベロ賞を取った。名前を西谷夕、と言った。体格も名前もまるで自分と正反対だった。そんな彼に惹かれて仕方なかった。それからは渇いた大地が水を求めるがごとく、彼との再会を待ちわびた。けれども、受験勉強やその他色々と忙しい時期だったことも重なって、結局一度も彼と出逢うことは叶わないまま、旭は三年間の中学生活を終えたのだった。

 その後、旭は烏野高校に進学し、再びバレー部に入った。まさかその一年後に彼が同じ高校、同じ部活に入ってくるだなんて、そのときの彼は予想すらしていなかった。


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