ぎゅっと抱きすくめたその体は見た目以上に細かった。回した腕が余るほどに華奢な体躯の主は、驚きのせいか硬直してしまって動きを止めている。癖っ毛の髪から覗く耳にかぷ、と噛み付いてみると刹那は体を大袈裟に弾ませた。

「ひあっ!」

首筋辺りからぞくぞくと伝わる感覚に体を震わすその反応を見て生娘みたいだな、とニールは思った。耳孔に舌を滑り込ませるとその反応は更に顕著なものになっていった。枝みたいに細い腕を突っ撥ねてニールから離れようとさえしている。それが出来ないとなれば子供が駄々を捏ねるみたいに首を振るものだから、ニールは刹那の後頭部に手を回した。

「あっ ぅう…」

必死に声を抑えようと口を噤むが、耳に走る快感に耐え切れず声を漏らす。その反応が可愛らしくて首筋から鎖骨の辺りまで、舌を滑らせた。

「は、ぁん…っ」

「ん?」

麝香の香りではない、別の香りがふと漂っていることに気がついた。座敷の中で香を焚いているわけでもないのになんの香りだろうか。ほんのりと儚げに、微かに漂うこの出所は何処かと座敷を見遣っていると、腕の中にいた刹那が身じろいだ所為でニールはふと我に返った。

「…どうか、したのか…?」

少々蕩けた目でこちらを見上げている刹那の表情から、恍惚の色が見え更にうっとりとしている。ほんの少し体に触れただけだというのに、こんな表情をするなんて大分敏感なんだろうか。ニールは蕩けた表情の刹那の顔をそっと手で包み込んで鼻先にちゅ、と口付けをした。

「どうもしないよ。なんかお前さんが可愛らしくてな」

ニールがそう言うと、ボッと音が出るのではないかと思うほどに刹那の顔が赤く染まった。張り見世で見た時と同じく、やはり吉原にいるには似合わない者に感じられた。こんな戯言、耳にたこが出来るくらい聞いているだろうに。

刹那にはその戯言を軽く受け流す様子もない。刹那を可愛いと言った言葉に偽りはないのだが、その言葉に対して馬鹿正直に反応を示すなんて女郎っぽくないなと感じたのだ。普通の女郎はこういう言葉を囁かれてもさらりと流すものだと想像していたから刹那の反応は予想外だった。

目を逸らしたままこっちを向こうともしない刹那の耳に、先ほどと同じように噛み付いてやると切なげに声をあげた。

「ん、耳 いやぁ…っ」

「ん?なんで?」

「そこで しゃ、喋るな、あ…っ!」

ニールが喋る度に吐息が耳を撫でる感覚に、刹那は先よりも抵抗の色を強めた。くすぐったいのに妙な快感が体を走って耐えられなかったのだ。執拗に耳を弄られてずっと鳥肌が立っているようでぞくぞくとして、刹那は恥ずかしく感じた。

「く、くすぐったいんだ… ぁ、」

「気持ち良いの間違いじゃないのか?」

耳から口を離したかと思うと、ニールは刹那の小さな唇に吸い付いた。少々息を荒くして半開きだった、無防備な口内にするりと舌を滑り込ませていく。進入してきた異物を舌で押し出そうとしていたが、柔らかく温かいそれに歯列をなぞられて刹那は一気に脱力した。

唇の端に口づけされかと思うと、次の瞬間には優しく舌を吸われている。与えられる快感を受け止めるのが精一杯な刹那はニールの動きについていけない。突然首筋を撫でられて大仰に肩を震わせたり、甘ったるい声をあげるしか出来ないのだ。別のところに意識が向いてしまうと、他のところが疎かになるのは当然で、今度は舌を吸われて細い腰をきゅんと撓らせた。

「んっ…はぁ…」

始終の刹那の反応を見て、すっかり虜になっていた。こんなに可愛くなるなんて、とニールは感嘆の息をもらす。張り見世で見たきりりとした面影は既にない。今は快感に溺れかけて瞳をとろりと蕩けさせているのだ。演技ではないことは見れば分かる。紅潮した頬にうっすらと涙を浮かべている赤い瞳。

息もすっかり上がってしまって肩で息をするほどだ。やばい、可愛くてしょうがない。ニールはそっと赤い着物の裾から覗く足首に手を添え、そのまま裾を割り手触りの良い肌を上へ上へと滑らせていった。すべすべとしてきめ細かでまるで絹を触っているような錯覚を覚えた。全身を撫で回されて刹那は座っているのもやっとで、縋るようにニールの着物を掴んでいる。

「気持ち良い?」

「は…ん、 ぅ」

「なんでこんなに可愛い反応してくれるのかね」

腰周りに手を伸ばしながら問うと、刹那は必死に首を縦に振って応えた。刹那にしたら体裁を繕うだけの余裕がないだけだったのだが、ニールにとってはただの興奮材料になるだけだった。小さな愛撫一つひとつに過敏に反応されて嫌な男はいないだろう。ましてや素直に「気持ち良い」とはっきり伝えてくるのなら尚更だ。前で締められている帯を解くと、赤い着物がするりと肩まで肌蹴ていった。

「…あっ」

「おい、隠すな」

「、だって…!」

肌が外気に晒されて少々冷静さを取り戻した刹那は胸の前で着物を掴んで佇まいを直そうと躍起になった。わたわたと慌てている様は子供のようだ。

「だってもへったくれもあるか」

「うう…」

「逃げるなよ」

侵入した手があばらを撫でていると、着物の合わせ目が緩くなり刹那の太ももが顔を覗かせる。すらりと伸びる褐色の肌のせいでニールは余計に煽られた。ずい、と手を押し込むと小さな膨らみに辿りつく。

「…ひっ!」

掌にすっぽりと収まってしまうくらい慎ましい膨らみだった。刹那はニールの大きな手で体を撫で回されて、敏感なところを包み込まれてびくびくと体を震わせている。ニールが形を確かめるように何度か揉み上げると、掌の中で頂がつんと主張をし始めた。その頂を指先で詰りだされると、刹那はもう堪らないと言いたげに声をあげた。

「や、やだぁ…!」

「やだって言うなって」

「…っは、恥ずかしいんだ…!」

刹那の顔はさっきとは比にならないほどに真っ赤になっていて、臍を曲げた子供のような顔でこちらを見上げている。その顔に思わず噴き出したニールは笑う。

「ははは!本当に女郎らしくないなぁ」

「え?」

ここまで素肌を晒すのを嫌がる女郎なんてそうそういないだろうなとニールは心の中で一人ごちた。勿論他の女郎とこういう風になったことがないから想像の域を出ないのだが。一方、ニールの反応にきょとんとしながら、刹那は着物を手繰り寄せて肌を隠す。それに気がついたニールは刹那の耳元で問い質した。

「そんなに脱ぐの嫌か?」

「嫌…だ…。恥ずかしいから…」

「ふぅん」

女郎としてこの子はやっていけるのか、という疑問がわいたがそんなこと今は関係ないなとニールは刹那と一緒に、後ろに敷かれている布団の上に雪崩れ込んだ。