意識が途切れて覚醒する。視界に光が明滅している。腰を掴む手が熱い。定まらない視線を目の前で動く男に向けると腹の中で忙しなく行き来していた物が止まった。

また出した。

刹那は思考停止した頭の中でぼんやりと考えた。何度目だろうか。

「少年、戻ってこい」

幾度と達して朦朧とした意識は現と夢の狭間をさまよっている。だらしなく開かれたままの足の間から熱が抜け落ちていく。それを追って粘質のものがこぼれる。それに反応して刹那は小さく声を漏らした。

「まだ夜は長い…これを飲むといい」

ぐったりと弛緩した体を抱き寄せて猪口に注いだ桃色の液体を入れて半開きになっている刹那の唇に当てて流し込む。甘い、と知覚したあとに酒のような匂いが喉元を通り過ぎていった。次いでグラハムは貝紅と取り出した。が、洒落た装飾が施された貝殻の中身は紅ではなく半透明な軟膏だった。それを掬い取り、手を伸ばす。少し温いなにかが足の間に塗られたような気がした。刹那はそこから意識が徐々にはっきりとしてきていた。

「うう、ん………」

「暑いか少年。その反応の良さを見るともう効いてきたな」

朧気だった触覚が目を覚ます。頬を撫でる掌、のしかかってきた体温、肌にかかる吐息。勝手に皮膚が粟立って内臓から熱くなっていく。仰け反り露わになった細い喉をグラハムの舌先が這えば下腹部から全身にかけてピリピリと痛覚が駆け巡る。

喉ではなく下腹部から、なぜ。

肌を撫でるだけの柔い愛撫がじれったい。

「あ、あっ……」

耳元をグラハムの唇が掠めるだけで四肢が跳ねる。熱を鎮めて欲しいと一人でに腰が浮いた。中心が熱を持って熟れて何度も交わったそこは更にぐずぐずにほぐれていく。全く触っていないにもかかわらず体液が滴り落ちた。

「こちらも効いてきたようだ」

膝を持ってこじ開けられたそこは月に照らされてよく見えた。先ほどまで怒張したグラハムの肉を咥えていた刹那のそこは小さく慎ましい。その穴がほのかに蠢いている。触れればどのような反応を示すだろうか、とグラハムは生唾を飲んだ。飲まされた液体も塗られた軟膏も媚薬で、既にその効果は刹那の体を蝕んで感覚全てを快楽にするようにすり替えていく。

「さあ、言ってみたまえ」

「や、いやあ……」

腿の付け根を摩ると刹那は鼻から抜ける甘ったるい声を出した。その隣、もっと奥を撫でて。客の特異性に嫌悪していた刹那だったが、薬の効能で肉欲に負けそうになり必死に首を振る。なだらかな胸の下、薄い腹の奥。そこに早く入れたい。淫靡な反応にグラハムの中心に熱が集まる。勃ち上がった肉の竿で刹那のそこを軽く撫でた。

「う、あ………っ!」

そんな些細な感触にそこがひくり、と動いた。ぱくぱくと水面近くでエサを求めて喘ぐ金魚のように開け閉じを繰り返してる。触れただけで達したのだとグラハムはほくそ笑む。

「たったこれだけで…いやらしい体だな」

誰のせいでこうなっている、と心の内で反論した。勝手に飲ませ塗った薬のせいだ。嗚呼、体が疎ましい。すぐにでも意識を手放してしまえるほど疲弊しているのに、当の意識が覚醒して快楽を欲しがっている。

亀頭で陰唇をなぞられて刹那は悲鳴を上げた。少しでも横に逸れて入口を撫でられていたら。子宮がきゅうんと痛いほどに疼いた。刹那の意思に反して、肉体は限界が近い。それはグラハムも同様で少年の雰囲気を纏う可愛らしい遊女の痴態にそこは怒張する一方だ。

「どうして欲しいか、言うんだ、少年」

「あ、あ、だめ、いやあ」

どの口の言うことを信じればいいのか。迷うまでもなかった。その後しつこく陰茎で女陰ほとを撫でられ足を戦慄かせて刹那は欲しいですと強請った。擦り付けていたそれを迎えるように腰を上げ、涙を浮かべながら。待っていたとばかりにグラハムは宛がっていた穴に力を込める。襞を撫でる肉の感触に本性が暴れた。あられもない嬌声。激しい水音。男女の交わりは激しさを増した。



媚薬の効果は凄まじかった。居続けの間、精魂尽きるまで交わり意識を飛ばし、再び目を覚まして食事を摂る以外の時間は全て性交に費やされた。

下半身がだるい。

グラハムが遊郭を後にしてようやく刹那は一息ついた。薬を盛られ前後不覚になりながら一心不乱に求めてしまった。嫌悪感が込み上げてくる。陽が高く上った頃、水を吸った布のように重い体を叱咤し身支度を整えて階下に降りると板の間が騒がしかった。

「それは三階の部屋へ。貴重な品だ、注意して扱うように」

ティエリアが他の廻し方に指示をして大荷物を運ばせている。何事かと目を丸くしている刹那を見て年長の遊女が通りすがりざまに声をかけた。

「廻船問屋から買ったんだとさ。身の丈くらいある鏡だよ。座敷においておくみたいだからあとで見るといい。綺麗だったよ」

「あ、ああ分かった」

鏡よりも廻船問屋に気を取られてロクな返事ができなかった刹那は掠れる声で「ニール」と名前を呼んだ。干菓子を共に食べて以降、顔を見えせていなかった。

「いつ会えるのだろうか」

思い人との再会はすぐに果たせた。その日の夜、ニールは最上屋に登楼あがった。願えば通じるとでも言わんばかりの時機だ。ニールの通された部屋には偶然にも件の鏡が設置されていた。実際に飾られている鏡を見て感嘆の声を零す。

「予想以上に溶け込んでるなあ」

「綺麗だ」

「飾りがだいぶ派手でな、買い手がつくかわからなかったんだが」

「そうなのか?」

「ああ。南蛮のもので高価で輸入するときは悩んだよ。でもこの部屋になら馴染む」

白磁の装飾が施されていて、赤い屏風がある部屋の差し色になり映えて美しい。この鏡はニールの商家が取り扱っているものだ。思い人の仕事の片鱗を窺えて刹那は少しうれしくなった。しゃがみ込んで細かい装飾をまじまじと見ていると鏡越しにニールと視線が絡んだ。すぐ真後ろに腰を下ろして髪を撫でている。情を滲ませる表情に驚いて思わず振り返った。

「に、ニール…?」

「こっち向いちゃだめだ」

前を見て。言われるがまま鏡と向き合い、ニールにしな垂れかかるように刹那は腰を下ろした。着物の隙間から顔を覗かせる小さな膝をニールが撫でる。

「せつな」

近い。体温が高い。匂いが、ニールの香りが刹那を包む。猫に木天蓼、刹那にニール。猫のように木天蓼を前にして昂るのではなく、刹那はどこか酩酊しているようにも見えた。ふにゃりと力なく寄りかかってくる刹那の頭をニールの筋張った手が撫でる。それだけでも堪らない。

「ん、ニール、何を…?」

「何もしないぞ」

膝から腿に忍びこむ手に鳥肌が立つ。耳を食みながらゆっくりと肌を合わせ刹那の手を取り、足を広げさせて羽交い締めにしていく。気が付けば、鏡に向かい秘所を曝け出そうとしている格好になっていた。膝を広げてしまえばニールに見えてしまうが、見られている姿を自身も見ることになる。それに気がつき羞恥心に頬が紅潮した。ニールは意地悪く笑っている。いつの間にかはだけて見えている胸元を指先で撫で囁く。足を開くんだ、と。

「ほら、刹那」

「なにもしないって…あ、あん」

「変なことはしてない。見て触ってるだけさ」

こんな雰囲気で何もしないはずがない。ニールの言葉を一瞬信じてしまった自分がなんだか悔しかった。腿を撫でられる感覚に思考が鈍る。刹那の口からは時折甘い声が漏れていく。根気よく促されておずおずと膝を広げた。恥ずかしい姿が鏡に写り、それをニールが見ている。恥ずかしい。心臓が鳴る音が耳元でするようだった。閉じたくても後ろからニールが膝を押さえていて動かせない。

「可愛いな…自分で開いて?」

耳を疑う言葉に鏡に写るニールを見遣る。柔らかい口調とは裏腹にギラギラと燃えるような視線に後押しされ、震える手で自分のそこを広げた。左右に開いた奥に小さな穴が見える。襞がぴくりと動いた。その僅かな反応を見逃さなかったニールは刹那にまた囁いた。

「どうかしたか」

こんな恥ずかしい恰好にさせておいてどうかした、なんて無責任な。刹那は泣きそうになった。羞恥に喘ぐ刹那を一層抱き込むようにニールは後ろから覆いかぶさった。

「どこを触って欲しい?」

「は、いや、触っちゃだめだ…」

「じゃあ刹那はどうして自分の大事なところをこんな格好で見せるんだ」

ひどい。

甘言につられてなし崩しにこんな恰好にされている刹那は、突き放される感覚に泣き出しそうになる。瞳にうっすら涙が浮かぶのと、それに気が付くのはほぼ同じだった。腰に熱いものが当たっている。

自分の姿で昂っている。あのニールが。

胸が苦しい。混乱しながらもして欲しいことはただ一つ。

「さ、さわってえ…」

「どこを?」

愉しんでいるのが伝わってくる。ニールの意図する通りに刹那が反応を示す。こんなにおもしろいことはないだろう。

「もっと広げないと触れないな?」

逡巡する間も惜しいと刹那は動く。くぱ、と音が聞こえた。まだ触ってないのに、湿っている音が。横に広げられて、てらてらと濡れて光る桃色の粘膜が鏡に写る。鏡越しに視線が絡む。「いい子だな」とニールの瞳が言っている。きゅ、と襞が戦慄く。ニールの僅かな意思表示さえ刹那を煽る要素になった。

「はう……ん、あっ」

衣擦れの音に交じり皮膚同士が、指の腹と包皮が擦れる音だけが二人を支配する。襖の向こうで嬌声や笑い声が聞こえるが、耳には届いていない。互いの吐息だけを拾って二人きりの世界の没入している。

包皮を優しく撫でるばかりでむずがゆくなって刹那は声を漏らす。

「も、もっと…」

直接的な感触を与えて欲しい。その長く綺麗な指で恥ずかしいところを撫でて欲しい。ニールでめちゃくちゃにして欲しい。短い言葉にはそんな感情が凝縮されているようだった。焦らされて堪らないのは刹那だけでなくニールもだった。

「じゃあ、わかるよな、刹那」

自分でやらないと。

今日のニールは意地が悪い言葉ばかりを囁く。でも殊更に優しい声色で言うものだから意地が悪いと感じるのはほんの僅かで次の瞬間にはすぐに腹に落ちてしまう。そうだ、自分でやらなければ触ってはくれない。でも触られたらどうなってしまうのか、少しばかりの不安が脳裏を過ったが瑣末なこと。刹那は迷わず手を動かした。丸く整えられた爪、細い指で包皮を捲り上げると実が顔を出した。ニールは刹那の下の口からぬめる液を掬い下から上へ撫で上げた。

「あう”っ……っ!」

目の前が真っ白になった。隈なく隅々まで撫でられて膝が震える。上下に左右に好き勝手撫でられ擦られても少しも嫌じゃなかった。快感から小さな口が開いては閉じを繰り返しているのが鏡に写り、見られているのを感じながら何度も達した。みっともない恰好をしていると刹那は思わなかった。ただただニールの指で愛されているのが幸せで、その幸せをもっと享受したいからもっと広げた。欲に従うがまま体を曝け出している刹那は、小さな先端をこりこりと爪の先で数回擦られたあと、潮が吹き出て鏡を汚した。余韻で陰唇が震えている。

「あ”、あっ……!」

「気持ちよかったか?ここが好きなんだな」

「すき、にーる、すき」

ニールが触るから好き。言葉足らずに刹那はうわ言を零す。赤く膨らんでいる核はぷくりと膨らんで窮屈そうに天井を向いている。核をねちねちとしつこく擦りながら奥に入り込んできた指が不意に曲がり、襞を抉った。下腹部に圧迫感が走る。

「い”、や、あん、」

小さな穴に指が二本飲み込まれているのが見える。ぬめって出入りがしやすいのか、簡単に根元まで入り込んできた。指の先が襞を摩る。根元が口を左右いっぱいに広げていく。指が、熟れている実を転がす度に女陰ほとが収縮する。内側と外側の反応が連動しているのを視覚して、ますます刹那は乱れた。

「ここは好きか?触ると可愛くなるな、刹那」

わからない。初めてだから。でもニールだから、好きだ。もっとして。

刹那は何を言っているのか判別がつかない。気持ちいい以外の感覚が消えてひたすらに求めていた。腕の中で悶える刹那をかき抱いて床に押し倒して激しい情交は明け方まで続いた。


20211226