グラハム・エーカーが再び最上屋を訪れたのは数時間前のこと。毎夜のように張り見世に出ていると金髪の男が刹那を指名した。見覚えのある、というには鮮明すぎる記憶が蘇る。足腰立たなくなるまで自分を犯した男を見て刹那は鳩尾辺りが重くなるのを感じた。
「久方ぶりだな、少年」
妙な呼ばれ方に刹那は首を傾げた。周りの遊女に比べれば貧相な体つきなので見方によっては少年に見えなくもない。しかし遊郭に足を運び安くない金で指名した遊女を“少年”と呼ぶのは些か理解が及ばない。
なんだこの男は。
座敷に入った留守居役を前に刹那の表情から商売用のつくり笑顔が抜け落ちる。呆気に取られて言葉を失っていると、刹那はグラハムの視線を感じて居住まいを正す。
「あの、」
「私は男色家だ」
「は」
指名して座敷に登楼るなり体を暴かれた先日とは異なりグラハムはよく喋った。徳利を持ち猪口に酒を注ぎながらグラハムは初見で居続けをしたのは公費を使うためだったと零した。
「…男色家」
「ここの辺りでは遊郭しかないと知って足を運んだ」
「は、はあ…」
「同僚に誘われて来ただけで物色のみで帰るつもりだったのだが君の儚げな佇まいに惹かれて指名した。そのお陰で女体も悪くないと思えた」
「……………」
なんとも開けっ広げなことを言う男だ。恥ずかしくないのか。些か気持ちが悪い。気が付けば刹那はグラハムに対して遊女としてあるまじき言葉遣いと態度をとっている。ドン引きして冷たい眼差しを向け黙り込む様は特殊な性癖を持つ一部の客には受けるだろう。
「少年、君の淡々とした対応も私の好みだ。他の遊女たちはしつこくて敵わん」
「江戸の外れに男娼を買えるところもあります。そちらに行けばいいのでは」
「同僚と仕事相手がその手を好まないのでな。仕方なく来た先で君に出会った」
「…………………………」
「まさしく愛だ」
猪口に入った酒を盗み見る。まだ一口分しか口をつけていないのにこの饒舌な語り口と気色悪い言いがかり。留守居役というのは頭のおかしい人間がなる職業なのか。
「しかし高い金を払って買えるのは遊女のぬくもりだけ。そんな悲しいことがあっていいと思うか」
「さあ」
話をしたくないな。刹那はどうにか言葉を交わさないようにできないかと考えたが今晩はにこの男と床をともにしなければならない。粗相をしでかして機嫌を損ねて帰ってもらおうか。勿論そんなことをしようものなら刹那自身に客がつかなくなる可能性もある。
「そもそも一晩で指名した相手の何が分かるというのか。君のような麗しい少年のことは時間をかけて何もかも知りたい」
「少年ではない」
「遊女らしくない振る舞いに折れそうな四肢…そそるな」
「逆効果か」
嫌悪感を隠しもしない刹那に詰め寄って顎を取って顔を上げさせたグラハムは愉しそうに笑う。自分を指名した客に対して素っ気ない態度をとるのはご法度だ。安くない金を払い買った遊女がつれないと文句が客から出る。そしてあの遊女はお高く止まって駄目だと噂が立って客足が遠のく。この苦界から抜け出すのに時間がかかる。それが嫌ならどんな客にも媚びろ。遊女の生きる術の一つだ。
「さて、少年のような少女。先日のような無粋な真似はしない。時間はたっぷりある」
「なに…?」
この男は今なんと言った?時間がたっぷりあると言ったか?
「今日は仕事相手とこちらに来た。向こうも懇意にしている遊女が居て居続けをする。それに付き合わないわけにはいかないからな」
居続け。聞きたくない単語に硬直した刹那の体を引き倒したグラハムはか細い体に馬乗りになった。乱暴な動きに着物の合わせが肌蹴て小さな膨らみが顔を出す。外気に晒された柔い肌にグラハムが触れると、あとはもうなし崩しになった。
*
「少年の顔に少女の体、この不釣り合いさは罪だぞ…」
「あっ、あんっ いや、あっ」
小気味よい音が鳴る度に体が揺れる。腹部の奥の方が何かに小突かれてコツンコツンと小さな衝撃が走る。
「ゃ、あっ…!」
「ここが好きなのか?」
「ん、ん……っ」
引き倒した刹那の着物を脱がしたあとのグラハムは先日とは別人のような所作だった。強引ながらも痛みはなく、繊細なところを探るように指を滑り込ませてしつこく撫でまわす。肉の襞を掻き分けて狭い奥を愛撫され刹那は体を震わせる。
そんな容赦なく弱いところを撫でるな。
布団に顔を押し付けて喘ぐ刹那はみっともなく足を開いて何度も気を遣っている。反応が気に入ったのか執拗にそれを繰り返すグラハムは逐一小言をもらす。襞を擦る度にきゅうきゅうと締め上げる膣の様子を後ろから眺めて至極ご満悦だ。
「いやらしい体だな…このままでは指がふやけてしまう」
「ひゃあ……っ あっ!!」
つるつるで隠すものがないそこからちょこんと頭を出している突起を摘まむと刹那の体が一際大きく跳ね上がる。指を締め付ける肉の襞が激しく痙攣してじゅわじゅわと何かが溢れて、あられもない嬌声が部屋に響く。
「あ、………うっ!」
「さて、もういいだろう」
「やっ、やだ……っ」
「口と体は言ってることが違うな」
指を引き抜くなり陰唇に宛がわれたのは熱いものだ。感触でわかる。大きくそそり立って刹那の中に早く入りたいと脈動している、グラハムの。ぬるぬるとした愛液と張り裂けそうなほど膨らんだ亀頭が擦れる。ミチミチと容赦なく侵入してくる肉の棒に刹那な息を詰まらせる。
「ひ、――――っ、あ、!」
「ははっ……やだというのはやはり嘘か…っ う、」
華奢な腰を押さえつけてグラハムは息を吐いた。蕩けるような快感に飲まれているのはグラハムだけではなく、無理矢理に中を暴かれた刹那もだった。粘膜が擦れる度に収縮して締まって視界がちらつく。
「少年…っ」
「いっ……やだ、動くなぁ…っ」
この速さで事を進められたら体が壊れてしまう。痛めつけるように扱われるよりずっとマシだったがそれでも許容範囲を越える快楽に頭がどうにかなっていまう。これをずっと続けるつもりだ。この男の気力と体力が尽きるまで、この間と同じように。
「あ…んぅ… いや、いやだぁ…っ」
「泣き言を…っそんな甘い声を出しておいて うっ」
「んあっ」
ねっちこく中を擦り上げるグラハムの動きに刹那は体の中が、膣がこの男の物の形に慣らされていく。同じ形にされてしまうとぼやける意識の中で思った。目隠しをされて耳を塞がれた状態でもこの人のものだと判別できるようになるまでになってしまう。おかしくなる。
「――――あ、!」
時間はたっぷりある、と言ったグラハムの声が脳内に響く。背中を反らして気を遣りながら刹那は悲鳴を上げた。
20201220