ううん、と彼女が伸びをした。僕らはただ今、絶賛日向ぼっこ中である。
「春だねえ」
「うん」
「暖かいねえ」
「そうだね」
寒い寒い冬を越し、やっと春の暖かさが感じられるようになった。そして目や鼻が痒くなるようにもなった。春は好きだが、毎年花粉症に悩まされるのは嫌いだ。
「今年の春から何か始めたいなぁ」
「いいね。例えば?」
「うーん……花を育てる」
前から植物を育ててみたいなって思ってたの、と彼女は微笑む。その笑顔がまるで綺麗な花みたいだ、と思った。言葉にはしない、絶対。あまりにもクサすぎる。せっかくの暖かな空気が一気に冷えてしまう。
彼女に何の花がいいかと聞かれた。生憎僕は花には詳しくないので、春の花がいい、とかなりアバウトな返答をした。すると彼女はまた笑みを浮かべてうんそうしようと頷いた。
翌日、また日向ぼっこをしていると、窓の外のベランダに小さな鉢が置いてあることに気が付いた。小さな葉が土から顔を出していて、春の程良い日光に照らされていた。
「これ、何の花?」
「ふふ、育ってからのお楽しみ」
彼女は小さめのジョウロを持って、日光を浴びる葉に水をやった。シャワーのように流れる水が光に当たってきらきらと光る。この植物は、一体何ていう花に生長するのだろう。どんな色で、どれくらいの大きさで、どんな形の花が咲くのだろう。綺麗に咲くのよ、と語りかけるかのように、彼女はその小さな小さな葉を人差し指で優しく撫でた。